604:新幹線、東へ
【新幹線車内】
「新幹線」は砂漠を一直線に抜けていく。文字通り一直線で既存の町には寄らず、所々にある駅は何も無い砂漠の中の作業拠点であり、この電車は止まらず通過。
【第三層群屋上庭園】
「マリーさん、ミントさんからの報告によると、『新幹線』は、読書村から不破関まで、今は難儀森だが、ノンストップが『あきしま』、各駅停車が『ふきた』。としている。吹田を『すいた』とは読めないとのこと。」
「ふきた」だと徳島県板野郡吹田村。福岡県朝倉郡吹田村が「ふきだ」、熊本県菊池郡吹田村が「ふけだ」と読む。
「でも全部、昭島の図書館そのものと吹田の図書館の展示品を1両づつ繋いでいるんですよね。」
「図書館にある電車。という都合の良い存在がほとんど無いから仕方ないな。」
「蒸気機関車なら何両かありますが、この世界はダンジョン以外に石炭が無いし、構造上モーターを組み込む加工も手に余りますからね。商都梅田は電車ダンジョンですが150年も昔の旧式しか入手出来ません。『新幹線』も100年前の物ですが。」
「このダンジョンの仕様では仕方ない。」
「せめて南関東交通局のアメリカ製電車があれば良いのですが。最悪、サステナ電車とかいうバタヴィアやクルンテープやサイゴンの中古電車でも、少なくとも21世紀の製造です。もちろん、最終的に必要なのは炭化水素燃料・自動車道・ビッグリグの三点セットですが。」
「どれも対応するダンジョン無しでは入手困難か。」
「はい。この世界の技術力で生産可能な物ではありません。道路は極論を言えば鉄とコンクリートの塊なので何とかならないでもないですが。幸いこの世界のこの地域ではダンジョンがらみ以外で大きな地震は少ないと思われますので、異世界ほどの耐震構造は不要と思われます。」
「え~と、プレートテクトニクスが無いんだったな。」
「この世界は砂漠惑星で表層部に水が乏しいため、世界全体が『スタグナントリッド』という1枚の地殻に覆われており、その下のマントルの動きで地殻が隆起・沈降することで地形が作られています。」
ただし、ダンジョンが大量の水を地表に供給した場合、惑星規模の異変が起きる可能性はある。
「砂漠と言っても全く雨が降らない訳でも無いが。」
「降れば洪水ですけどね。このダンジョンの水田の影響で今年は多いような気がしますが。」
【新幹線車内】
「山が見えてきた。」
車窓から外を見ているのはアスカのトウモロコシ修羅、ゼア・マイス・エロトル。
「身終も半分か。確か西半分が平野のはず。」
畝傍艦のイチイガシ修羅、クエルクス・ギルバ従一位艦長、橿原トリヤは、後ろの車両から持ってきた適当な本をパラパラと眺めながら答える。
「まだ半分?」
「地図によると、どうやら南に見える山が『終富士』、海豚池ダンジョンという畜生ダンジョンがある。」
「イルカって魚だろ。魚ダンジョンか。」
この世界ではクジラやイルカは魚とされる。
「牛や猪や鹿も居る。どういう基準なのかは分からないが。人間の食肉なら牛は食べないし馬が含まれないのは整合性が無い。鶏・猪・鹿・馬で牛は食べない。」
もちろん偶蹄類。往々にしてダンジョンは特定種族のみに何らかの効果があり、修羅でも百合の国深谷ダンジョンの崩壊は、禰宜達が百合科では無かったことが原因。
なお、制度的にどの種族を住民と認めるか。とは無関係。図書館都市ダンジョンは六道のうち修羅・人間・畜生と、限られた外道種族が住民となる。
「読書村まで直行だから、途中の駅には止まらないか。」
「工事が終わった区間は、鉄道を守って先住民を掃討するための騎兵隊が駐留しているだけだから、わざわざ止まる必要は無いんだろうな。」
「掃討……。」
「アスカに言われたくは無いが。電車はダンジョンの外なので襲われる危険性がある。もし鉄道が襲われた場合、おそらく騎兵隊は相手の村を皆殺しにすることで抑止力とするんだろう。」
「そこまでやるでしょうか。」
「もっとえげつないことをすると思うぞ。想像すら出来ないほどの。それくらいでないと、短期間でここまで急成長はしない。じっくり拷問して苦しめ、ゆっくりと焼き殺す。くらいは平然としているだろう。」
正解に近づいた橿原トリヤ。図書館都市ダンジョンは、生贄を本で押しつぶす、あるいは焼くとダンジョンエネルギーを効率的に得られる。
「確か2~3年で急成長したとか。」
「人の感情だけでは到底計算が合わないし、間違い無く何十万人も殺している。それが大餓鬼みたいな餓鬼なら、むしろ良い事だが。だが、一番数が多く余っているのは人間だ。」
オランウータンは生涯に平均3人子供を産み、1/3が病死・事故死・虎などに喰われ、残りの2人が親になる。
ゴリラは平均4人子供を産み、1/3が病死・事故死・豹などに喰われ、1/6が近所のオッサンに殺され、半分の2人が親になる。
チンパンジーは平均5人子供を産み、1/3が病死・事故死・豹などに喰われ、1/4が近所のオッサンに殺され、四割の2人が親になる。
人間は平均10人子供を産み、1/3が病死・事故死・鰐や河馬などに喰われ、2人が親になる。つまり子供の約半分が殺される。人間の繁殖力が近縁種より高いのは、野生社会において殺人の発生率が極めて高かったためと思われる。これが農耕社会になり法制度等で殺人が全死亡の2割程度まで減ると、人口増により飢饉が頻発するようになった。さらに技術革新で乳幼児死亡率が激減したことで人口爆発は深刻となる。




