600:狸に化かされる
【難儀森】
「やっぱうるさいな。寝られへん。」
工事の音で眠れない玉造次郎三郎。だが、植物なので夜に弱い修羅達はもちろん、人間のはずの久米一族もぐーぐー寝ている。
「寝られませんか。」
受付に居たのは直立二足歩行する人間大のタヌキ。服は着ていないが頭に木の葉を載せている。タヌキは足が短いので背は人間よりかなり低い。
「相当急いどるんやろな。電車。」
「今年の新米の季節までに完成させる。そうです。米なんか何が良いのか分かりませんが。たぶん図書頭様も分かっていないでしょう。それこそ『ご飯が無ければ饅頭を食べればいいじゃない』くらい思っていても不思議はありません。」
伝承によると、北町奉行の曲淵景漸が「ご飯が無ければ犬猫を食べればいいじゃない」と言ったため天明の打ちこわしが発生したという。
「人間と、あと畜生やったら雀や猪あたりやな。米が好きなのは。」
雀はブルーベリーが大好物だが、異世界日本への導入は20世紀後半で、この世界では特殊なダンジョンにしか無い。
「人間が多いから、経済が米を基本に廻っています。狸が多かったら鶏頭、鶏の頭で……やっぱり保存が効かないからダメです。」
「俸禄が米やのうてニワトリの頭やなんて……どんな怪談だよ。狸やったら、やっぱ木の葉を小判に変えたりは出来へのやろか。」
「無理です。ダンジョンの機能による幻覚としてなら可能ですが、重さは変えられませんし、触ると分かります。よっぽど欲の皮が突っ張った人で無いと騙されません。要するに騙される人が悪いのです。」
もちろん狐狸の見解。
「つまり、ここではできへんと。」
「化けることもできません。別に化ける必要のないいたずらなら可能ですが、それらは基本的には手品の一種です。狸の一族には化かすのが好きすぎて、図書館都市で手品の本を調べ、工夫して実用化して練習、手品師になった者も居ます。」
「手品か。」
「あと、人間相手なら特殊な能力を使わなくても、お酒を飲ませれば。よく狐狸が人を酔わせて肥溜めの風呂に放り込んで、お弁当を盗んだりしています。図書館都市では犯罪になりますが。」
「あかんやろ。そういえば、明日向かう『図書館都市』って名前があらへんな。」
「図書館都市というのが名前ですが。」
「それは、寺社とか芝居小屋とかと同じ、建物の種類や。団子屋ダンジョン。なんてあっても、どこの団子屋か分からへんやろ。」
「確かに、普通は屋号や地名で区別します。」
「人かて、権兵衛以外は名前がある。ま、人間やったら大抵名前が複数あるんやけど。」
江戸時代同様。
「狐狸も普段使う名前の他にも別の名前が複数あったりします。修羅は大抵は名前が1つですが。」
「修羅かて種族名、輪廻名って言っとるけど、それだけってことは普通はあらへん。」
厳密にはイチイガシの場合、花名と呼ぶべきかもしれないが、この世界ではその辺は不明かつ適当。なお、本来は六道のうち天道と地獄道以外の種族には種族毎に輪廻名があるはずだが、餓鬼に関しては不明で、人間道は1種族だけ。
「修羅は狸を『ニクテレウテス・ヴィウェリヌス』って呼びますが、意味が有るのでしょうか。」
「種族を区別するっちゅうだけやろな。獣人も動物も一緒くたで意味があるかは知らへんが。」
「ともかく、図書館都市は大ダンジョンですから、何にせよ、そこは、それ、泥船に乗ったつもりで。」
「あかんやないか。」




