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599:大餓鬼・難儀森

【大餓鬼・西郊外】


「大餓鬼には寄らず、直接南にある図書館都市ダンジョンの作業拠点、確か難儀森と言ったか、そちらへ行ったほうがええやろ。」

 不破関から3日。玉造(たまつくり)次郎三郎が言う。

「確かに忘八(ぼうはち)郡の大餓鬼は、その名の通り餓鬼の町であり、修羅は快く思われていない。」

 イチイガシ修羅のクエルクス・ギルバ従一位(じゅいちい)艦長、橿原(かしはら)トリヤが続ける。

「それだけやあらへん。大餓鬼は4年前に多数の住民が東方へ遠征したまま帰らなかったが、彼らを皆殺しにしたのが図書館都市ダンジョンや。そんで、そのダンジョンが今度は自分たちの町の目の前まで手を伸ばしてきた。大餓鬼の餓鬼にして見れば到底容認できへんやろ。」


「親の敵と言う訳ですか。」

 トウモロコシ修羅のゼア・マイス・エロトル。

「まぁ、餓鬼やさかい親はおらへん。それに忘八(ぼうはち)郡やから『孝』もあらへん。」

「八徳が無いのなら義も忠も無さそうだが。」

「それに餓鬼やから畜生みたいに縄張りを主張したり、修羅みたいに土地に固執はせえへん。もっと原始的な怒りやろな。」

「当然、迷迭香(マンネンロウ)の塔も恨まれているのは分かっているでしょうが、対策はしているのでしょうか。」

 ゼア・マイス・エロトルが質問を重ねる。


「それこそ知らへん。ダンジョンは守るのは得意やけど外征は苦手や。アスカは例外やからよう分からへんかも知らへんけど。ともかく、あの冷酷無慈悲の大量殺戮ダンジョンが無策っちゅうことはあらへんやろ。」

「アスカではあるまいし、ダンジョン外での殺害はダンジョンには無益だが。」

「相手が餓鬼やから、何らかの方法で酒断ちして動けなくなったところを電車に積んでダンジョンへ持ちかえり砕く。あたりやろか。」



【難儀森】


 大餓鬼の南、難儀森は、何百年も昔、凶賊に難儀する森林ダンジョンがあったという。だが、今は荒れ果てた砂漠の中に仮設の建物が並ぶ現場事務所。


「え~と、畝傍艦の艦長と、アスカの太子と、商都梅田の幹部。と。」

 受付の修羅が言う。ダンジョンモンスターでは無く普通の修羅。

「そや。」

「リコプス・ルキヅス・白根(シロネ)礼羽(ライハ)です。本国に報告しておきますので『新幹線』が手配でき次第向かってください。事前に連絡してくれれば良かったのに……と言いたいですが難しいです。無線技士(ハム)豚獣人(ハム)は数が少ないため、図書館都市ダンジョンも影響圏外に常駐はさせていません。」


「そりゃ、修羅主体のダンジョンやから畜生は二等市民、いや、修羅も畜生も同族を優先するから三等市民、好んで住む者は少ないやろ。」

「いえ、ここはダンジョン影響圏外ですから、一等市民も二等市民もありません。」

 真面目に言う白根(シロネ)礼羽(ライハ)。図書館都市ダンジョンではダンジョン支配種族と近縁の紫蘇(ファミリー)の修羅そして植物はダンジョンから力を得られる。なお、桐や胡麻などにも多少の効果はある。


「工事現場に餓鬼は見当たりませんが、やはり迷迭香(マンネンロウ)の塔は、大餓鬼の餓鬼とは仲が悪いのでしょうか。」

 ゼア・マイス・エロトルが微妙な話題を聞く。

「そこは、側近書記(セクレタリー)図書頭(ずしょのかみ)様の意向もありますが、このダンジョンでは、ここはダンジョンの外ですが、餓鬼は信用されていません。特に大餓鬼は4年前にダンジョンを大挙襲撃してきた餓鬼の発生源とされています。」


「ダンジョン外で餓鬼の大軍を食い止めることが可能なのか。」

「そりゃ、餓鬼かて本質は石やから、『餓鬼は石垣・餓鬼は城』って守る方が得意や。」

「はい。餓鬼は丈夫ですが、餓鬼故の弱点はあります。現時点では機密ですが。最も抜本的な対策は、この場所自体をダンジョン化することで、本国はその方法も検討中です。」


「『機密』というのは、往々にして未定、無策という事だから、餓鬼に襲われる前に迷迭香(マンネンロウ)の塔へ向かった方が良いだろう。」

 橿原(かしはら)トリヤは言い切る。

「さすがに、無策でここまで巨大化はせへえんやろ。定義はあらへんけど、甲種の上が必要やないか。」

「そもそもダンジョン規模の統一的な定義なんか不可能だ。」

「あくまでも商都梅田が主観的にやっとるだけや。ほんまはダンジョンが持っとる力の総量とか分かればええんやけど、測定手段すらあらへん。」


「父から聞きました。正確には分からないので誤って使いすぎたらダンジョンが破綻すると。」

「店で言うたら大福帳があらへん状態やからな。大型のダンジョンがたまに突如崩壊するのは冒険者やなかったらそれやろ。」

「うむ。大抵のダンジョンは知能が無い。仕方ないことだろう。」

 と、橿原(かしはら)トリヤ。


「ともかく、明日朝の『新幹線』で出発してください。夜も工事は行うのでうるさいですが、それは我慢をお願いします。」

「突貫工事やな。」

「はい。修羅は大抵は夜に弱く、月の明るさではシダ類の一部やキヅタ・オモト程度しか活動出来ませんが、畜生には夜行性や薄明薄暮性(朝や夕方に行動する)も居ますし、人間も月が出ていれば作業は可能です。」

 この世界は二重惑星系で月は近く大きいため、異世界の3,000倍近く明るくなり、最大500~600Lx、事務室には暗いが会議室程度にはなる。その代わり日食が多いのが欠点。

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