598:不破関から東へ向かう者達
【不破関】
この世界では商都梅田からの鉄道の終点が不破関。もちろん異世界では鉄道はとっくに役目を終えて廃止されている。
「エロトル様、電車はここまでです。」
石の神殿アスカから来たサルビア・ヒスパニカ・チーアが言う。
「ここまで畝傍艦の艦長さんと一緒なんて、あり得ない事だな。」
若いトウモロコシ修羅、ゼア・マイス・エロトル。ただし、「エロトル」自体が若いトウモロコシという意味なので、支配者に即位したら改名する。
「異世界の言葉で呉越同舟と言う。巨大ダンジョン迷迭香の塔と対峙するには、まず砂漠を渡らないと行けない。そして、この先、忘八郡の大餓鬼は餓鬼の根拠地。高市郡の中では対立していても、外では協力も必要だ。」
目元に入れ墨を入れた人間の男を数人従えた長身の修羅、クエルクス・ギルバ従一位艦長、橿原トリヤ。
「すごい。退治なんて。」
「退治じゃなくて対峙。巨悪と真っ向から向き合い、一歩も引かないことだ。あまりにも遠いし、久米の子達を全員連れてきたところで退治できる相手ではないだろう。」
東へは『輪形石』という溝が掘られた石が敷かれ、牛が曳く荷車がゆっくりやってきている。
「それで、東へは砂漠を牛車で渡るんだったか。」
「エロトル様、電車はここまでですので、重い荷物を運ぶなら牛車を使いますが、通常は人足を雇います。もぐりの人足は追い剥ぎに化けますのでご注意ください。」
異世界日本で白タクが禁止なのは江戸時代にもぐりの宿場人足があまりにも問題を多発させたため。
「大餓鬼までは30里無いから3日か4日。次に井口へ行くなら4日。輪形石に沿って山本へ向かうなら5日か6日だ。問題は、迷迭香の塔の電車がどこまで来ているか。だが、さすがに5年や10年では出来ないから、蝮か朱鷺か。」
地図を見ながら橿原トリヤが言う。
「もう大餓鬼の南までは出来とるやろ。」
男が口を挟む。
「む、何者……どなたさまで。」
「商都梅田の玉造次郎三郎や。今年の秋には新米が大量に出回る言うて、米屋は大騒ぎしとる。」
「米が増えたら米を食べる人間は喜ぶんじゃないのかな?」
エロトルが聞く。
「そないな簡単な話やない。米が増えたら米の値段は下がる。そないなったら米農家は貧しくなるし、命がけで寿司ダンジョンなどに挑む冒険者は失業や。」
ダンジョン産の寿司やおにぎりは日持ちしないので、乾飯に加工され流通する。なお、商都梅田付近の寿司ダンジョンで産するのは箱寿司であり、にぎり寿司は産しない。
「ふむ、ならば、商都梅田は迷迭香の塔の討伐を望むと。」
と、橿原トリヤ。
「こっちも、そないな簡単な話でもあらへん。当然米が安い方を歓迎する者かて多い。対策を誤ったら暴動かて起きかねへん。特に商都梅田は西成郡やから『場の力』の影響で暴動が起きやすくなっとる。昔、塩漬事件言うて暴動で大火災が起き、焼身自殺した首謀者が塩漬けにされて曝されるちゅう大騒ぎかて起きとる。」
「場の力か……我が畝傍艦もアスカも同じ高市郡なので共通する何かはあるかな。気付かないが。対して迷迭香の塔は足立郡。場の力はどうだろうか。」
「ずっと東やから、分からへん。」
あっさりと分からないという玉造次郎三郎。




