594:商都梅田
【商都梅田・第三層群・池袋・北武百貨店】
商都梅田の地下深く、巨大な地下空間に、電車の来ない駅と商品の無い百貨店がある。池袋には4つの電鉄系百貨店があるが、南が北武で北が南武と東西南北が逆になっていて紛らわしい。
「それで、こんな深層までソーライス(ソースをかけた白飯)喰いの偉いさんが何の用だ。普段は枕詞で『豚が鳴く』とか言っておきながら。」
長年、ダンジョンを研究してきた初老の男がぶっきらぼうに言う。歴史的には「鶏が鳴く」だが、北武百貨店は屋上遊園地部分に大きな看板があり、HOKBUと書かれているがKのみ色が違う。NaNbuのNなど4つの百貨店の強調された文字を並べると東西南北でOINK、つまり豚の鳴き声になってしまう。
「板東の、『図書館都市』ダンジョンが暴れて周辺のダンジョンを無差別に襲っているという。この『池袋』は、異世界やと東の方にある迷宮駅や。何か分かることあらへんかな。」
「それこそ、図書館ダンジョンでいろいろ調べたら良いんじゃ無いか。このダンジョンでは本は入手出来ない。」
「図書館都市ダンジョンの脅威について図書館都市ダンジョンで調べるっちゅうのも変やないか。行くのも危険やろ。」
「ダンジョンだけを襲っているのか、人まで喰っているのか。商人も相当出入りしていたはずだが、その辺はどうなっていそうか。」
「人が襲われたならもっと騒ぎになっとるやろ。」
「東の商人が不破関まで仕入れに押し寄せているだけか。」
「いや、特にそんなことはあらへん。いつも通りや。そりゃ数年前に比べたら商人は桁違いに増えとるけど。」
「それは変だな。ダンジョンの産物は社会に不可欠だが、ダンジョンが無差別に破壊され、それが途絶えた以上、商人は買い付けに来るはずだ。ダンジョンは特定の種類の産物しか産しないから、図書館ダンジョンが百貨店になることはないし、元から百貨店であっても何でも手に入ることはない。」
「その仕様が問題なんやけどな。」
「確かに、地上には大文字屋と箕有・阪姫と阪奈。第二層群に新保屋と濃尾。電車同様、阪奈・濃尾・北武百貨店は鎮西、九州の博倉を含め同じ物だが、ともかく百貨店は多数あるが商都梅田のダンジョン産物は駅備品だけだ。」
「ダンジョンの本質が迷宮駅やからな。どないかならへんやろか。」
「どの層でも産物は大差無く、深層で電車とか産しても地上に運ぶことも出来ない。潜る価値が乏しいから探索は進まない。だから層群がいくつあるかも分からない。」
「無理して深層に潜らなあかんダンジョンやあらへんし。」
「第五層群『渋谷』の地下5階までは存在が確認されているが、たぶん第六層群がある。ただ、渋谷地下五階は東京横浜電鉄渋谷駅だが、凶暴なダンジョンモンスター『東横キッズ』を産するため踏破できていない。」
もちろん異世界では渋谷とは無関係だが、アスカとアステカのように名前が似ていると、この世界では影響を受けることがある。
「潜って攻略できる物でもあらへん。そもそも全層群の全ての『駅長室』を同時に制圧せなあかん。無理やろ。」
「あと、ダンジョンを攻略されると家が無くなってしまうな。第一層群『梅田』の地下だけで2万人だったか。それで済めば良いが、ダンジョンの力を失ったら天井が落ちるぞ。」
「地下空間が大きすぎて支えきれへん。ちゅうことか。なんせ、既知のダンジョンでは人口は最大や。最近までは。今は図書館都市が最多ま。」
「埼玉郡ではなく隣の足立郡だが。」
異世界の都道府県名は県庁所在地かその郡名だが、埼玉郡岩槻町に場所が無かったため足立郡浦和町に県庁が置かれた。栃木と三重も同じ。開港の神奈川・兵庫と特別市設置に伴う城丹だけが例外。つまり四国西部は温泉郡由来の「温泉県」である。
「細かいことは、どーでもええやろ。そや、直接図書館都市へ行って情報を集めてくれへんやろか。」
「……それは、ソーライス喰いとしての命令か?」
「さすがに命令やあらへん。」
「重大な問題が1つある。ダンジョンは放棄されたゴミを吸収する。というのは有名だな。」
「そりゃ、ダンジョンをゴミ捨て場にするのはようある話や。」
「そこで問題が、ここを離れてしまうと、せっかく集めた資料がダンジョンに吸収されかねない。」
「重大な問題やな。でも、そんならなぜ最初からダンジョンの外に住まへんかったんや。」
「昔は、そんなに物が増えるとは思っていなかった。」
「しゃぁない。箕有百貨店で話し合って決める。」
ソーライス喰いは箕有百貨店8階の大食堂で食事しながら商都梅田の運営方針を決める。




