593:畝傍艦
【畝傍艦】
高さは100mを越えるが直径1km程度と図書館都市ダンジョンが載っている丘よりずっと狭い山。その頂上に長さ100m程の鉄製の帆走併用軍艦が載っている。麓の村を含め山全体が畝傍艦ダンジョン。
「グルヌイユ中尉、迷迭香の塔が近隣のダンジョンを一掃していることは、どう見る。」
クエルクス・ギルバ従一位艦長、橿原トリヤが二足歩行するカエルに問う。
「意味が分からないコワ。石の神殿アスカみたいに頭がおかしいコワ。」
この世界の住民に近代兵器など扱えないので、ダンジョンの兵器はアンリ・グルヌイユ中尉達が扱っている。他の乗員もニワトリのミシェル・コック、カタツムリのレオン・エスカルゴ、カモのジャン・カナールなど、なぜかフランス料理の食材に相当する畜生種族。
「どうやら行動原理はアスカと同じ、つまり意味のない他勢力の破壊か。どうやら別に影響圏拡張、繁殖指向のr戦略という訳では無いようだな。そもそも迷迭香は半乾燥地に適応したストレス耐性戦略を取りそうなものだが。」
「艦長、普通は畜生も修羅も餓鬼も、元の動植物・鉱物の特徴に影響されるコワ。でも、普通のロマランは高させいぜい2メートルだけど、あの塔の『世界樹』は既に高さ数十メートルに達しているコワ。」
「え~と、めとる?」
「長さの単位コワ。2mは7尺、数十メートルは100尺か200尺って考えれば良いコワ。」
「前にも聞いたな。400歳にもなると物覚えが悪くて困る。それで、普通は駕籠舁きより少し高い程度だが、迷迭香の塔では橿原の樫より高いのか。」
艦長は、南麓の村を覆うイチイガシなどの樹林、その南にある人間の村を見て言う。
【畝傍艦】
「畝傍艦が出現したのは、かれこれ180年ほど昔、そなた達には何世代も前だが、ほんと、大尉どのが懐かしい。」
イチイガシ修羅の寿命は樹木のイチイガシ同様500年、時には1,000年にも達する。なお、短い方は一年草の修羅でも寿命は数十年ある。
「いきなり何コワ?」
「当時、橿原の村は高市郡の厄介者、アスカに戦争を仕掛けられ、負けた者は亀石の生贄にされていた。だが、大尉どのは、キィエー!、キヤアァー!、とか叫んで、アスカのジャガー戦士やコヨーテ戦士を畝傍艦の大砲で吹き飛ばし……。すまぬ。時代が大きく動こうとしているように思える。」
「迷迭香の塔コワ?」
「そう。ただ、この畝傍艦が狙われる危険性もあるので、彼らの手がこの付近に届く前に使者を送りたい。遠いのが問題だが。」
「何千キロ……千里ほども向こうコワ。」
「鴨や鳩なら……ダンジョンの外では飛べないか。」
「もし飛べるなら、敵将の頭に亀を落とせば戦は終わりコワ。」
「世の中そんなに甘くないか。でも、亀?」
「禿げ頭には亀が良く効くと言うコワ。」
「相手のゼア属は毛が生えているが……。」
トウモロコシ修羅なので。
「畜生は畝傍艦を維持するのに必要なので、使者は修羅から出して欲しいコワ。」
「ふむ。橿原と言うだけあって住んでいるのは樫の一族だが、何も高貴なイチイガシが出向くまでも無……いや、重要な問題だ。それに、アスカはもちろん、同属とはいえならやまダンジョンのコナラどもに先を越されたら気に入らぬ。」
「急くコワ?」
「コナラなんぞ寿命100年か200年の短命種のくせにオークなんぞ名乗って。実に気に入らぬ。……久米郷の人間に聞かれると不味いので聞かなかったことにしてくれ。」
本来のオーク、輪廻によるとクエルクス・ロブールは落葉樹だがイチイガシと同程度の寿命を持つ。
「100年とか言われると、畝傍艦の畜生はみんな短命種になってしまうコワ。」
「そこは樫基準だから。……ここは親征と行くか。」
「艦長自ら迷迭香の塔を成敗するコワ?」
「畝傍艦を移動させる訳にもいかないし、さすがに征服は無理だろう。護衛に少数の久米一族は付けるが、あくまでも交渉だ。別に相手はニラでは無いし、最初から『撃ちてしやまむ』とは言わない。」




