591:順調
【冒険者支援拠点】
紫蘇科修羅の名前付きモンスターは相変わらず8人から増やせないが、名前有り一般モンスターは随分増え、例えば土木では台湾人っぽい黄荊と南欧系のアニョカスト、機械では東南アジア系のダハッとマラバヤバスが加わっている。
冒険者達の管理、ろくに管理出来ていないが、ともかく法学部卒「という設定」の東南アジア系ケマンギ、インド系トゥルシー、東アフリカ黒人ムコンドの3人が、冒険者達のダンジョン討伐を支援している。
【見沼の岸・工房】
「鉄……ですね。」
工房の床に、輝きを失った直径20cm程度の鉄球がいくつも転がっている。
「どうにも質が悪いな。」
鍛冶屋が言う。
「ニッケル……と言っても知られていませんが、別の金属。その他、炭や硫黄なども含まれますからね。やはり一度ダンジョンに吸収して鉄材を再生産した方が良いかもしれません。その場合、このダンジョンより鉄の扱いに向いたダンジョンの方が効率は良いでしょうが。」
「つまり、こいつを群馬鉄山に放り込むか。だが鉄を吸収させるなら隣の草津温泉の方が速そうだが。10日で釘が消えると言うが。」
「残念ながら、草津温泉はこのダンジョンの配下ではありませんね。ダンジョンコアなんか食べさせたら始末に負えなくなりかねません。」
湯治客を止めて兵糧攻めも出来ない。そんなことしたら病人が暴動を起こしかねない。
【第三層群屋上庭園】
「知能が無いダンジョンの処分は順調ですね。幸い冒険者にも死者は出ていません。」
地図からは赤い表示がだいぶ減っている。
「進むのが早いな。」
「徹底した情報収集、万全な準備、それから一気に片を付けます。相手に知能があれば、そう上手くはいきませんが。」
「知能がある相手だと冒険者が倒される危険が高く、そうなると相手が強化されてしまう。だったな。」
「はい。あと、ダンジョンにもよりますが冷静さを失うなど感情的になることも危険ですね。冒険者に座禅や滝行を勧めているのも精神修練です。ただ、これも知能があるダンジョン相手には難しい問題があります。」
「そうなると感情も生命も無い無人兵器が一番か。生産出来るなら。だが。」
「現状、せいぜい地雷くらいですね。ただ、桶川から複製召喚した祖国地雷工場も建物は図書館付きショッピングセンターで、何も無い店舗部分に分冊百科から組み立てた工作機械を並べただけなので、生産性はお話になりません。」
「分冊百科は基本的に個人向けだから、大きさも小さいな。」
「分冊百科『ゲーテ全集』の付録のギロチンも野菜程度しか切断できませんね。」
ゲーテは都会に住む母親に、息子のためにギロチンのオモチャをねだった記録がある。
「軍需工場ダンジョンが無い以上、自律型兵器は手に余るな。」
「特に地下型や塔型など内部が複雑なダンジョンは高度な自律型兵器が無いと攻略困難ですね。立体構造ダンジョンを攻略する場合、電極で制御したゴキブリを群れで扱うのが一番効果的に思えますが。」
「災害救助じゃ無いんだから。ただ、生き物とはいえゴキブリ程度ならダンジョン相手には有効と言うことか。」
「正確な区切りは不明ですが、普通の動植物からはダンジョンはエネルギーを得られませんからね。たとえば平原型で可燃物の多いダンジョンなら火豚、豚獣人の砲兵部隊ではなく、古代ローマの火を付けた豚が有効でしょう。」
「ダンジョンを焼き払った後で、残った焼き豚を食べるという訳か。」
「豚を食べる種族なら。修羅でも昆虫を食べる種族、いわゆる食虫植物はいくらか居ますが、豚まで食べるのはほとんど居ません。ダンジョンモンスターならダンジョンによっては人まで食べる植物モンスターも居ますが、当然生物ではありませんね。それに、仮にそういうものが名前付きモンスターになったところで、物理法則の制約によりダンジョンの外では生きられません。」
「ドラゴンはダンジョンの外では自重で潰れる。だったな。」
「はい。ドラゴンは容赦なくぺしゃんこになり、ほとんどの飛行モンスターは地に墜ち、巨大昆虫は息が出来ませんね。とはいえ、そういうモンスターがいるダンジョンへ冒険者が入る場合、恐るべき敵となる訳ですが。」
「ドラゴンなんか居るダンジョンは封鎖した方が良いだろうな。」
「同感ですね。容易に倒せる相手ではありませんが、それだけの固有法則は維持コストがかかるはずですから兵糧攻めが有効でしょう。このダンジョンには『石の神殿アスカ』のような、他のダンジョンを直接攻撃できる固有法則はありません。」




