590:ダンジョンの選別
【第三層群屋上庭園】
「多いですね……ダンジョン。」
無数のピンを打たれ、カラフルに塗り分けられた地図を見ながらマリーが言う。薄紫で紫外線では明るく光る図書館都市ダンジョン、青い配下ダンジョン、逆に赤く塗られた三角草野。様々なダンジョンが分類され色分けされている。
「吾輩にはあまり見分けが付かないな。」
「あ。確かに猫や牛馬など多くの畜生は赤から黄色は判別出来ませんね。」
マリーはそういうと、投影された地図を青系と赤系(ただし猫には黄色と区別が付かない)の2色に切り替える。なお、修羅のほか、畜生道でも鳥や昆虫は紫外線を識別できるため、例えばカラスは雌雄で色が異なって見えている。
「青いのが、管理者が居ると思われるダンジョンや、誰かの生活の場だったり有用な資源を産するダンジョン。つまり今回討伐しないダンジョンです。この中でも『箱根八里』や『魔の山谷川』などは、さっさと滅ぼした方が世のためですから、可及的速やかに封鎖を行います。」
「直接攻略は普通の冒険者には荷が重いな。」
「圧倒的な個の力があれば可能でしょうが。ただ、この世界、冒険者は組織化されていませんし強さの指標なんてものも存在しませんね。剣術の免許だって免許同士の比較は出来ません。」
「A級・B級・C級とか無いな。判定基準も決めようが無いし。囲碁や将棋なら体調や相性を無視して試合結果で決めることもできるが。」
「そもそもアルファベットは使われていませんからね。甲種・乙種・丙種などの冒険者資格もありません。冒険者では無く危険物なら、わたしも乙4は持っている設定ですが。」
「これが冒険者ではなくダンジョンの番付なら、このダンジョンは遅かれ早かれ大関になりそうだが。」
「その可能性は高いですが、断言はできません。見立番付は版元の恣意で、統一されていませんからね。それで、一方の赤いのが、管理者が不在で利用価値も無いダンジョンです。残念ながら、さほど数は多くはありませんが。」
「つまり、今回の討伐対象と。」
「はい。知性が無いダンジョンで、普通の冒険者でも準備をしっかりすれば勝てると思われる相手です。準備をせずに飛び込む者が居そうなのが問題ですが。」
「……冒険者だからな。」
「冒険者は江戸っ子みたいに無鉄砲な者が多く、とある源満仲の子孫みたいに、二階から飛び降りたり、ナイフで指を切ったり、挙げ句、狸が校長をしている四国の田舎の不良中学へ流されたり……は小説ですが、作者も源満仲の弟、源満快の子孫ですから、無鉄砲は江戸っ子で、江戸っ子は無鉄砲の事だと埼玉の田舎者は思うに極まっています。」
「この世界は江戸時代並なのに江戸が無いが。吾輩が知る限りでは。」
「かつては人口100万の江戸ダンジョンが存在しましたが、200年前に瓦解し、周辺のダンジョンを多数道連れに零落させた挙げ句に広範囲が荒廃しました。」
「100万人分の食糧需要が消失したから、食糧生産ダンジョンが破綻したか。」
「ダンジョンの住民は全滅はしていませんから、食糧需要はそこまで減らなかったでしょうが、嗜好品の需要は激減したようです。それに伴う経済崩壊が主な原因とのことですね。」
「このダンジョンは、さらに人口が多いから、今崩壊なんかしたら大惨事だな。食糧輸出ダンジョンだから大飢饉を引き起こしてもっと酷いことになるか。」
「日光はともかく、水と肥料が止まりますからね。人の感情と世界のコアをエネルギー源として、世界そのものから物質を抽出していますから。」
「ただの砂漠に戻ってしまうか。食糧が無くなるな。」
「この世界ではサボテン、石鹸体は一般的ではありませんし食用にもしません。外道種族の河童は石鹸に使っていますが。」
河童・天狗・鬼などは六道に含まれないため輪廻転生しない。
「さらに酸素も止まると。」
「さすがに、そちらは世界全体への影響は誤差範囲です。それに、この世界の住民も空気がダンジョン由来とは知らないでしょう。空気という概念すら一般的では無さそうですが。」




