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589:マリーのダンジョン攻略講座

 図書館都市ダンジョンでは重犯罪者は容赦なくサド金山送り、殺人犯は(理由がなければ)ギロチンのエサだが、人口数百万の社会では犯罪を犯さないまでも居場所が無い者は多々居る。そういう者達の一部は何でも屋の冒険者になり、その中にはダンジョンへ潜り産物を収集する者も居る。



【第34層群・文化会館棟・大ホール】


「このダンジョンの『ダンジョンコア』は、直径だいたい6~7寸、わたしの体重と同程度の重さ、銀色の球体です。表面は暖かい液体の金属ですが、組成は世界の(コア)と同じ鉄を含む金属で、本来地上でこのような状態にはなりません。」

 地表にある第34層群、1,903席の大ホールを埋め尽くす冒険者達は、ステージに立つマリーと、その上のスクリーンに投影された映像を見つめる。

「全てのダンジョンでコア、つまり核が同じ形状とは限りません。ですが、皆さんに討伐を依頼するダンジョンは知性がありませんから、核を埋めたり隠したり偽装したりはしていないでしょう。おそらく見たら分かります。」

 冒険者達の一部はせっせとメモを取る。だが、多くは自分の名前しか書けない。なお、知性があるダンジョンの場合、図書館都市はコアを部外者立ち入り禁止の場所にある世界樹の幹に隠し、猫啼温泉は土に埋め、群馬鉄山(穴地獄)は冒険者が入れない小型エレベーターで隔離している。


「ダンジョンには、塔型・平面型・洞窟型・地下空間型など様々な形状がありますが、そこは本質では無いので覚えなくて構いません。肝心なのは、通常、ダンジョンはその種類に応じて出てくる怪物や罠が決まっている。ということです。もちろん例外もありますが、そういうダンジョンは危険なので、今回は相手にしません。」

 図書館都市ダンジョンは知識系かつ資格基準なので、ダンジョンマスター権限の行使には修士号(マスター)が必須だが、『マスター』という英語自体は商店主・親方・棟梁、あるいは飼い主なども意味し、別にマーモセット(ポケットモンキー)の飼い主や仏像(偶像)の関係者でも良い。


「まず、ダンジョンの怪物。山なら熊や狼を初め、狐狸や大蛇や狒々や猩々。城や寺なら武士や僧兵から小餓鬼や幽霊や骸骨まで。そのダンジョンの属性に応じた怪物が出ます。中には全く怪物が居ないダンジョンもあります。これらの怪物はダンジョンの力で動いていて、生きていません。」

 管理者不在のダンジョンには名前付き(ネームド)モンスターは居ない。見た目が人間や動物でも生物では無い。

「人と似た大きさの怪物は、槍・薙刀・鉄砲などで倒すことが出来ます。もちろん、ダンジョンによっては固有法則によっては特殊な能力を持つ怪物も居ますが、そういうダンジョンは後回しです。危険を感じたら速やかに逃げ出してください。冒険者は牢人であっても現時点で侍では無いのですから、逃げるのも仕事です。切腹等、自害はダンジョンを強化してしまうため禁止です。」


「次に、小さい怪物。鼠や虫などの小さい怪物は弱いですが、素早いため倒すのは困難で、かつ毒や病気を持ってる危険があります。対応した道具を用意していない限り、安易に立ち入るのは危険です。」

 マリーはよくいるダンジョンの怪物や一般的な罠を数種類選び、退治方法を簡単に説明する。


「最期に、ダンジョン討伐で最も重要なことは3つ、精神を平静に保つこと、死者を出さないこと、そして速やかにダンジョンを討伐することです。ダンジョンは人の感情と命を力とします。感情を動かさず、命を失わず、時間を与えない。これが基本です。」

 図書館都市ダンジョンみたいに静かに本を読むだけでダンジョンが感情エネルギーを蓄積するダンジョンは例外。

「わたしは宗派が違いますが、実際、ダンジョン討伐には座禅などの精神修養が有効とされていますね。」



【第三層群屋上庭園】


「マリーさん、冒険者の大規模動員か。」

「冒険者に命令系統はありませんから、依頼ですね。このダンジョンの農業が軌道に乗り、穀物や野菜の値段が下がっています。当然、ダンジョン産農作物の買い取り価格も低下傾向ですから、このままでは冒険者が図書館都市ダンジョンに対し不満を持ちます。」

「確かに、同じだけ頑張っても収入が減るわけだからな。」


「つまり、近隣の不要なダンジョンを間引くとともに、冒険者に別の仕事を与えて生活させるわけですね。」

「でも、冒険者は転職できても、食糧生産ダンジョンは冒険者が減ったらダンジョンエネルギーも減って不満を持つのでは。」

「それは放置で良いでしょうね。ダンジョンは外征が苦手ですから。敵対的かつ危険な場合は攻略も視野に入れる必要はありますが、なにぶんダンジョンは守りに強いので、特に知能を持つ相手の場合、防衛に専念されると攻略するのは何かと面倒です。こちらの影響圏で完全に囲んでいるなら、人の出入りを止めて何年もかけて兵糧攻めするのが最善と思われますね。」


「ダンジョンエネルギーを断つ訳か。人間牧場以外には有効だな。人間牧場も出入りを止められると住民が不満を持ってダンジョンエネルギーの質が落ちるか。」

「人間牧場は純粋な兵糧攻めが有効でしょう。ダンジョンエネルギーだけで食糧を生産するのは採算が合いません。ですが、もし地上部に太陽光を利用する農場が広がっているなら、もう『数の力』、軍隊しかありません。」


「え~と、名将趙括が必要だったか。」

「兵法の基本に忠実な運用が求められますから、ダンジョン攻略には趙括は適任ですね。指揮系統がある軍隊はダンジョン影響圏内で無警戒に野営して『焚書坑儒』の餌食にはなりません。」

 焚書坑儒とは、とある召喚コストの異様に安い本を敷き詰めた落し穴に敵を落として焼き払うという図書館都市ダンジョンの得意技。


「逆に、練馬大根畑ダンジョンみたいな向こうからすり寄ってくるダンジョンが増えすぎたら、こちらのダンジョンエネルギーを相当使われる可能性があるのでは?」

 なお、マリーが良く知る異世界の東京市35区に「練馬区」は存在しない。

「……利用価値が無いダンジョンは冷酷に切り捨てる意志の強さが必要ですね……難しいですが。それなら、このダンジョンをより強力に発展させるしか無いでしょう。」

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