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587:自己間引きの3/2乗則

 ダンジョンが崩壊したらダンジョンマスターは死ぬ。逆にダンジョンマスターが死んでもダンジョンは崩壊しない。

 ダンジョンが崩壊したらダンジョンモンスターは消えるが、名前付き(ネームド)モンスターは残る。ただしダンジョンを失った元名前付き(ネームド)モンスターは一度死んだら復活しない。……というのが通常の場合。



【第三層群屋上庭園】


「マリーさん、それで、大々的にダンジョン狩りをして、ダンジョン影響圏の拡張が出来るか確認すると?」

「はい。もしかしたら、ダンジョンが十分な密度で存在する場合、ダンジョンの数と平均保有エネルギーは相関があるのでは。と思われます。その場合、ダンジョンを減らした方が個々のダンジョンは大きくなることができる、それどころかダンジョンの規模の総計も増えるのでは。と。」

「それはまた唐突な。」

「植物の場合、『自己間引きの3/2乗則』と言って、密度が1/100になると、平均個体重は1,000倍、つまり総重量は10倍になります。ダンジョンも地面に生えた植物のようなものですから、似たような法則があるかもしれません。」


「密度が1%になると、総重量は10倍になると?」

「だいたいそんなものですね。例えば、植物の紫蘇はこぼれ種から大量に生えてきますが、そのままだと大きくなりません。葉が触れあわない程度に順次間引くと相当に大きくなります。」

「つまり、密度が高すぎると全体の大きさも制約されるか。でも、ダンジョンは1部屋サイズから半径1,000km以上まで、大きさの差が相当あるが。」


「確かに、このダンジョンは特に大型の突出(emergent)ダンジョンですが、森林と異なりダンジョンは上下に重なることはありませんから、単層の群落と扱うことが出来ると思いますね。もちろん、ダンジョンを減らせば図書館都市ダンジョンを拡張できるとは限りませんが。」

「可能性は高いのか。」


「さぁ。ただ、影響圏半径内の無価値なダンジョンを除去すれば、その分使える土地が増えますからね。影響圏拡張が出来なくても意味はありますね。もちろん『無価値』というのは、わたしの『独断と偏見』による価値判断で、宇宙の普遍的尺度ではありませんが。なお、『独断と偏見』と言う表現は河合栄治郎の言葉ですから、半世紀ほど昔の2014年に著作権が切れていますね。」


「ダンジョンそのものの価値。と言っても、立場により異なるか。」

「はい。あくまでも主観ですね。そもそも、みんな『自分は優れている』と信じていれば良いわけで、統一見解を作ろうとしたら結論の出ない不毛な議論に陥るだけです。マスターが好きな競馬で言うなら、最強馬論争と同じですね。」


「無敗クラシック三冠+古馬年間無敗、七冠馬の直系子孫にして群馬が誇る九冠馬『キリュウコウテイ』。」

「中山グランプリで牝馬にボロ負けして『キュウリドウテイ』と呼ばれました。ちゃんと有言実行で翌年に春秋古馬6勝で九冠馬(キュウカンバー)になったのは評価しますが。ただ、4歳でさっさと引退してしまったのは賛否が分かれますね。」


「クラシック三冠牝馬『センミカン』。しかも騎手は『ミカン号』で勝った西郷従道の(傍系)子孫、西郷つぐみ。」

「『贅沢な名だね』と冠名に仙波(せんば)が使えず、長距離馬なので桜花賞ではマイル女王に勝てないから皐月賞に逃げたそうですね。馬自体はきれいな蜜柑色(明るい栗毛)ですが。あと、仙波と言えば、この世界では入間郡、川越付近の一族ですが、センミカンの馬主は四国の方です。」


「ならば三冠馬以外、いっそ、生涯全て2位、連対率100%で回数は五冠馬越え、熊本産の最強未勝利馬『タマナシルバー』。」

「名前が悪いですね。芦毛なんだからタマナグレイにすべきでしたね。ついでに血統も九州産種牡馬でマイナー過ぎて引退後は種牡馬になれませんでした。確かに未勝利戦抜けられないからと弥生賞2着で皐月賞に出て、クラシック全部2着、さらに安定して2位を続けるってのはとんでもないことですが。」


「それならば、最速馬『チョクセンバンチョ』。」

「それでもクォーターホースより遅いですけどね。タイ産馬は退散と。……このように統一された基準が無い以上、全く不毛ですね。」

「確かに結論は出ない話題だ。」


「修羅でも、蘭(ファミリー)が『高等種族』、菊(ファミリー)が『最も進化し、最も分化している一族』を自称していますが、わたしに言わせると、下品で腐っている。そして頭にヒマワリが咲いている。ですね。」

「そして、マリーさんは、紫蘇(ファミリー)が高等種族だと言うと。」

「主観的には自明ですし、当然ほかのモノサシでは違いますから、わざわざ言いません。」


「高等種族の『普遍的基準』ってのは難しいな。」

「例えば、19~20世紀の欧米では『人間動物園』と言って、アフリカなどの珍しい『未開民族』の集落を再現して原住民を生活させた展示が流行りました。でも日本では欧米人も好奇心の対象であり、イギリス村やスイス村など欧米人を展示する人間動物園が流行りました。これを見て欧米では人間動物園は消えましたが、日本では今でも一部が残っていますね。」

「このダンジョンは動物園では無く『人間牧場』だったな。」

「はい。人間に限らず修羅と畜生も含め、知的生命体をダンジョン内で生活させて寿命を待つことで、ダンジョンエネルギーを収集しています。居住環境の問題もあり、大抵のダンジョンでは困難な方法ですが。」


「猫啼温泉ダンジョンは温泉旅館はあるが、人間牧場にはなっていないな。」

「建物は江戸時代並、この世界では平凡な旅館ですし、温泉としての知名度も低いですからね。『温泉』というのも、この世界では風呂に入るのは人間と猿獣人くらいですから、草津くらいの知名度が無いと温泉だけで発展するのは難しいでしょうね。草津でも旅館は60軒、湯治客は年1万人と、このダンジョンに比べたらずっと小規模です。」


「何かと難しいか。」

「湯を温めるのにダンジョンエネルギーが必要ですからね。しかも固有法則で効能を持たせても、湯治客がダンジョンを出た時点で効果は失われます。」

「つまり、この世界の草津温泉は、ただの風呂ダンジョンと?」

「いえ、ダンジョンエネルギーを投じてアルミニウムや硫黄などを混ぜ込んでいますから、異世界の草津温泉と同じですね。ダンジョンマスターが居るのか本能なのかは分かりませんが。」


「人間牧場も簡単にはいかないか。」

「そもそも食品も日常品も入手できませんからね。群馬鉄山(穴地獄)ダンジョンや火浣布(かかんぷ)の山ダンジョンも鉱山住宅はありますが、このダンジョンの産品に依存しています。なお、これらのダンジョンには鉱物資源を採掘するために直接ダンジョンエネルギーを注入していますね。」

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