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586:やるべきことリスト

【第三層群屋上展望台・世界樹】


 第三層群はダンジョンの頂上に位置する。3番目に複製召喚された図書館で、図書館の床面積2.6haとこのダンジョンで初期に入手可能な大学図書館としては最大。建物全体の規模なら、第4,423層群は東京市本郷区湯島由来の地上26階・地下3階で延床面積6.4haという高層ビルだが、図書館部分は0.4haしかないし、そもそも当時の保有ダンジョンエネルギーでは手が出なかった。

 だが、無理にこの図書館を召喚したため、紫蘇(ファミリー)修羅の設定上の学歴に制約が生じ、司書を初め、歯医者・薬剤師などが入手出来ない問題が生じている。つまり司書がいないため図書館としては機能していない。


「さて、今すべきことは……。」

 マリーは仮想窓に「やるべきことリスト」という文字を投影する。

「このダンジョンは図書館の備品しか複製召喚出来ませんから、機械、医薬品、種苗などの製品を産するダンジョンを探し、取引するか征服する必要がありますね。」

 マリーは「工業製品などを産するダンジョンの発見(トレーラー・航空機・医薬品・種芋と苗)」と書き込む。

「ダンジョンを発見するためにはダンジョンの探索が必要で、その方法は、外からの情報を集めることと、こちらから探すこと。この世界の交通手段には限界がありますから、探す。ことに重点を置くべきでしょう。」

 さらに「ダンジョンの探査」と書き、横に「調査隊派遣」「空中探査」「人工衛星」と書き込む。

「ただ……調査隊では広範囲を虱潰しにするのは困難ですし、空中探査は航続距離が問題ですし、人工衛星はありません。ダンジョンが容易に見つからない場合……。一番確実なのは、ダンジョン影響圏をさらに広げることですが。」

 ダンジョンは所有者の居る物品や既存のダンジョンを影響圏に呑み込むことは出来ない。つまり、ダンジョンに呑み込めない土地は、村など誰かが所有しているか他のダンジョン。マリーは「ダンジョンの探査」の下に「このダンジョン自体を拡張(現在、影響圏半径1,373㎞)」と書き込む。


「……結局、ダンジョン影響圏を広げるのが正解ですね。これ以上広げる方法は全く分かりませんが。」

 「このダンジョン自体を拡張」の下に「方法は?」と書き、横に「必要なダンジョンあり=完了/なし=四角い車輪の再発明が必要」と書き込む。

「ダンジョン影響圏の半径を2万700km、世界の反対まで広げれば良いのですが、難しいですね。そもそも広げる方法が分かりません。仮に方法が分かっても、拡張にも維持にも、おそらく、とんでもない数の生贄が必要になります。」

 マリーは「方法は?」という文字の下に「生贄の数!」と書く。感情だけでは無く、ある程度は命そのものを喰わないといけないのがダンジョンの宿命。とはいえ既に人口は軽く300万人を超えており、無理な拡張をしないなら寿命で死ぬのを待てば良いのであるが。


「世界全体をダンジョン影響圏に組み込めば、世界中のダンジョンを確認出来ますが、拡張の方法は分からず、生贄の手配も限界がありますね。」

 ダンジョンが大きければ大きいほど多数の生贄が必要になる。そして、このダンジョンの「価値」は情報であり、単に大量殺戮をすれば良いという物では無い。知識なり記憶なり情報量の多い死者が有用となる。

「現在影響圏の半径は1,373km。ダンジョンシステムの管理限界1,231km、つまり255リーグは既に越えています。制約はダンジョンシステムでは無く、何らかの『法則』でしょう。」

 「方法は?」という文字から矢印を引き「制約は自然法則」と書き込む。

「ダンジョンシステムの単位系はヤード・ポンド法ですが、もちろん、これは人為的な単位系です。おそらくダンジョンそのものは自然単位系、つまり自然法則に基づく普遍的な長さに依存するとは思われるのですが。」

 マリーは「自然単位系」と書く。

「とはいえ、仮に長さの基準がプランク長だったとして、二進法なのか十二進法なのか何か。予想も付きませんね。十進法は指の数由来ですから違うでしょうが。ただ畜生は種類によっては元の動物の影響か指の数が違いますね。」


 しばらく考えていたマリーは、「生贄の数!」の下に「感情エネルギー」「生命エネルギー」「他のダンジョンのエネルギー」と書き込む。

「感情エネルギーは、このダンジョンの場合『情報』ですから、識字率を引き上げるのが手っ取り早いですね。出来れば7~8割程度に引き上げたいものです。」

 なお、異世界では江戸の識字率は比較的高かったが、農村部の場合、例えば明治初めの滋賀県では、署名ができたのは7割程度で、おそらく、本や新聞を読むことが出来たのはせいぜい2~3割といったところ。

「生命エネルギーも、単純化すれば死亡時の脳の情報量ですから、結局の所識字率に帰結しますね。このダンジョンは実態としては農業ダンジョンなのですが、システム上はあくまでも図書館ダンジョンですからね。」

 マリーは「感情エネルギー」「生命エネルギー」の下にそれぞれ「識字率70~80%」と記入。


「そして、おそらく、他のダンジョンを滅ぼす必要があるのではないかと思いますね。ダンジョンは守りに強いので、知能のある相手は、仮に話が通じなくても基本的に放置で良いでしょう。攻めるのは大変ですし、相手が攻めてきても守るのは容易です。ですが、知性が無く本能で生きている無脳ダンジョンは積極的に狩る。としましょう。」

 「他のダンジョンのエネルギー」の下に「無脳ダンジョンは狩る」と書き込み、さらにその下に「組織的なダンジョン狩り(特にヒダル神は優先駆除)」と記入。

「特に、峠なんかに居座って低血糖症を引き起こす『ヒダル神』ダンジョンは交通の邪魔ですし、積極的に駆逐しましょう。」


挿絵(By みてみん)


「ダンジョンエネルギーは数値化できませんが、ともかく、わたしの脳が焼ききれない程度にエネルギーを蓄積すれば、なにか起きるのではないかと思いますね。」

 手足なら時間があれば再生する修羅と言えども脳が黒焦げになったらおしまい。名前付き(ネームド)モンスターは死亡しても復活するが、無駄に「能力」が高いマリーは復活時に莫大な量のダンジョンエネルギーを消費しダンジョン自体を危険にさらす可能性がある。

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