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583:西への道の暫定開通(3)不破関にて待つ者

【不破関】


 商都梅田の電車は改造「新幹線」より速く、最高速度120km。「燕より速い」と称するが実はツバメは時速50km程度とさほど高速では無い。


「そんで、結局、電気の問題が解決できへんさかい、不破関から東はどうにもならへん。ちゅうことやな。」

 ソーライス(ソースをかけた白飯)喰い、つまり商都梅田の偉いさんが問う。

「はい。商都梅田は概ね100里範囲ではダンジョンの機能で影響圏外でも線路を引くことが出来、電気も供給されます。ですが、その外側では人為的に送電線で電気を引く必要があり、さらに60里も離れたこのあたりでは、だいぶ電圧が低下しています。東の大餓鬼方面は下り坂になりますから、電車が行ったきり帰ってこれない危険があります。」

「いくらダンジョンで電車を産する言うても、使い捨てにはできへんな。」

 50tもある鉄の塊を複製召喚するには相当のダンジョンエネルギーを要する。数十万の知的生命体の命を喰った挙げ句にダンジョンを滅ぼしてエネルギーを奪うなんてことまでした図書館都市ダンジョンならともかく、商都梅田にはそこまでの余裕は無い。


「図書館都市は電圧降下の問題も無さそうで、入鹿池を越えて線路を延ばしてきていますから、いっそ、このまま不破関まで丸投げしても良いでしょう。」

「技術的には彼らの方が進んどるようやな。どうやっとるかは分からへんが。」

 1920年代には既に「超伝導」は知られていたが、商都梅田では技術書は複製召喚出来ない。もっとも、当時知られていた水銀を液体ヘリウムで冷やすなんて方法では1,000kmも電気を送るのは不可能に等しい。


「方法が分かれば、西の(きび)まで線路を引くことも可能でしょうが。」

「そりゃ技術的にはともかく政治的に難しいんちゃうか。(きび)は大国やから、原理が分からへん他国の品物を置こうとはせえへんやろ。その気になったら容易に軍事的に使うことが可能や。むしろ身終(みのおわり)が許したことが奇蹟やないか。」


「あの国も内情はいろいろありますし、不正確な情報ですが、どうやら図書館都市が恫喝した模様です。普通、ダンジョンは外征が苦手ですが、あのダンジョン、ナニカ厄介な力を持っていると思われます。」

「技術っちゅうのは、それだけで力やからな。商都梅田は電車の現物を複製召喚出来るだけやけど、あのダンジョンは100年以上進んでいる上に技術書を直接入手出来る。細かい技巧は不明かて解析は大幅に容易になるやろ。確か図書館都市の言葉では『知識は力なり』って言うたか。」

 もちろん異世界のフランス(フランシス)煙肉(ベーコン)というイギリス人由来。赤シャツの帝国文学に相当するのが図書館の多数の蔵書。マリーは入手可能な書物の何万分の1も読んでいないが。


「彼らの『新幹線』も、連結できない変な形をしていますが、何か意味が有るのでしょう。」

 流線型ブームは商都梅田より少し新しい1930年代の流行。

「分からへん。待つだけ。ちゅうのも気に入らへんな。そやかて、大餓鬼かて歩いたら片道2日か3日必要や。」

「電車なら一刻も要らないのですが。」

「電気が届かへんな。」

「理論上は蒸気機関車という方法もあるのですが、石炭がありません。そもそも誰も動かし方が分かりませんが。」

 商都梅田で複製召喚可能な蒸気機関車は。鉄道建設や砂利運搬に使用された物。


「現実的な距離に石炭を産するダンジョンとかあらへんやろか。西方千里の西域は論外やし、南方400里っちゅうのも(よし)の山を越え、(くま)の山も越えた彼方で到底石炭なんか運ぶのは無理や。」

 異世界の九州に対応する地域は、知られている限り、西4,000km彼方の西域か、身終(みのおわり)から南方1,500km以上。

「西は遠すぎますし、南は石の神殿アスカが亀石に生贄を捧げて地滑りを起こすので、安定した輸送は期待できません。」


(よし)の山奥なんて、しょっちゅう道が崩壊して孤立しとるからな。」

 異世界では神戸付近・淡路島・滋賀県多賀町などで少量の石炭を産した記録があるため、商都梅田の手が届く範囲に炭鉱ダンジョンが存在する可能性はあるが、商都梅田に情報は無い。


「いっそ、図書館都市がアスカを滅ぼしてくれたら、我が商都梅田にも好都合なのですが。」

「そう都合良く行くとは限らへん。それこそ、アスカも商都梅田も纏めて漁夫の利を掠われる可能性かてある。」

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