582:西への道の暫定開通(2)電車の複製召喚
【読書村】
読書村から不破関までは1,000km。この世界、かなり不破関よりの身終国・忘八郡・大餓鬼までは比較的平坦な岩石砂漠が拡がる。別に土木工学専門のハマゴウ修羅、浜田博士とは関係無い。
「側近書記殿、異世界では大垣から不破関までは14km、標高差120m。国道14号(東京~京都)の最高地点は180mありますが、この世界では100kmの距離に対し高低差は大差ないので、勾配に弱い『新幹線』でも問題はありません。比較的平坦なので、線路はほぼ直線となります。ただし、砂漠なので急な降雨による鉄砲水の危険があるため、涸れ川には橋が必要です。」
「ミント、計画変更に伴い訂正された地図では蝮の北から大餓鬼の南まで400kmくらい直線ですが。」
「この世界で濃尾平野に相当する地域は平坦かつ人口希薄なので、既存の村やダンジョンを外すようにルートを選べば一直線で線路を引くことが出来ます。ただ、最初の計画とはだいぶ違っています。」
「確かに、砂漠惑星ですから水の得られるダンジョン以外では、オアシスや伏流水のある涸れ川沿いにしか人は住めませんね。餓鬼は別ですが。」
乾燥に強い多肉修羅と言っても人間体には根が生えていないため水分補給は必要だし、畜生も脳の大きさに下限がある以上、水蒸気だけで生きることはできない。なお、多肉修羅は細胞に直接水を溜め込み、ラクダ獣人は血液中に水分を溜める。
「身終国内は『輪形石』と言い、溝を掘った石を4尺5寸間隔で並べて牛車を走らせるシステムが存在するため、低速とは言え大量輸送は可能であり、既に一応は商都梅田への米の輸出は可能です。ただ、牛のエサ代等を考慮すると米では採算は取れないでしょう。」
「確か異世界では江戸時代の京都にあった物ですね。」
「この世界も車輪の工作精度が低く、鉄道のレールほど寸法を一定させられないため、溝になっています。」
「ミント、鉄道だってダンジョンの産物で、この世界では生産出来ませんね。」
「このダンジョンでは図書館の備品である少数の電車のみ。それも国や地方政府に所属する物のみです。東横の廃車を流用した私学は複製召喚できません。一方、商都梅田は『大大阪』時代の大阪の電車を入手出来ますが、なにぶん150年も昔の旧世代の物ばかりです。」
「図書館で使うには電車は大きすぎるのでしょうね。」
「確かに、路面電車なら、下関とか日野とか複数の事例がありますが。側近書記殿、都市内用に路面電車を導入しますか。どれも100年以上昔の車両ですが。確かに、入鹿池ダンジョンの明治時代の電車よりは新型ですが。」
「ミント、自動運転タクシーは東京などの大都市以外では全ての市内交通を担うことが出来ますし、大都市なら地下鉄や空中鉄道が有用ですから、このダンジョンでは欧米みたいな路面電車は不要です。問題は今のダンジョンは全住民に自動運転車を使用させられるだけのエネルギーが無いことですが。」
「自動車自体が図書館の備品の中では大型で複雑なので、かなり多くのダンジョンエネルギーが必要だな。」
「それでも、異世界の情報とダンジョンエネルギー、そして、この世界の地殻やコアの構成元素から自動車を複製できる。というのは大した物ですね。図書館の備品という制約無く、大型高速バスやビッグリグも入手出来れば良いのですが。」
「側近書記殿、運送会社ダンジョンでもあれば入手可能でしょうが。このダンジョンでは入手可能な物は政府所有の図書館関係に限定されるので難しいでしょう。図書館の建物は民間の複合施設でも丸ごと複製召喚出来ますが、図書館以外は建物だけです。」
「タワーマンションを複製召喚しても家具どころか台所や風呂・便所も無いんですよね。修羅なら不要ですが。」
「ダンジョンはゴミを吸収する機能があるので、ダンジョン内では問題ありません。狸獣人は便所で情報交換するので困っているようですが。」
「ダンジョンなら、躾のなっていない犬獣人でも施設が汚されずにすみますね。」




