037:自爆「してしまう」ドローン
【第三層群屋上庭園】
「この空撮ドローンは、重量200g代とハト程度の重さでありながら、巡航速度50km/h・最高速度90km/hとハト並みの飛行性能を誇り、飛行可能時間もハトより劣るが数時間。という優れものです。もっぱら、軽量大容量のリチウム空気二次電気のおかげですが。」
「ハトはいったいどんな高性能『電池』を積んでいるのやら。」
「『性能』という面ではドローンよりは鳥の方が優秀です。なお、ダンジョン側の送受信機を大出力にして、地平線距離まで通信可能としています。」
「第三層群の屋上に長さ40mくらいのアンテナがあるが……。」
「あれは3.5MHz帯。もし、この世界で誰かがアマチュア無線をしているなら、3.5MHz帯を見張っていれば通信可能。で、このドローンに使うのは2.4Gz帯で、直進性が強く障害物に弱いため地平線以遠の運用には向きません。」
「つまり、現時点だと計算上は60km程度か。」
「今日は、試験飛行を兼ねて、西の霞ヶ関上空まで飛ばします。最高速度なら40分程度ですが、電池を消耗するので1時間後に。」
【コアルーム】
「そろそろ霞ヶ関が見えてきます。館長、あれが霞ヶ関でしょう。」
「涸れ川を越えた向こう側の台地の東端、つまり一番こちらに近い側か。空堀と土塁があって城に見えるが、天守閣っぽい物は見当たらないな。」
「マスター、一番高い場所にある、倉庫みたいな2階建てが天守閣なのでは? そして、城の西側が町ですね。人口は数千くらいでしょう。官庁街って感じは全くありませんね。」
マリーが言うのは霞が関。
「あまり大きな町では無さそうだな。水田らしき物は無し。畑も痩せていそうだ。あと、やはり町を囲む城壁は無いんだな。」
欧州でも中国でも、都市は城壁があるのが常識。さすがに周辺の農村部、さらに国全体まで囲い込むのは困難で、ローマ帝国やいくつかの中華帝国しか出来なかったが。
「あとは、ドローンを自動操縦にセットして、戻ってきたら手動に切り替えて……あ、西3km程度にもう1つ町があります。」
「霞ヶ関は双子都市だったのか。」
「西側の方が規模はかなり小さいですね。東側が霞ヶ関なのでしょう。」
【コアルーム】
ドローンはダンジョン近くまで帰還。
「何か高度が低下しています。」
「ミントさん、こちらのカメラでドローンが映せるか?」
「距離が遠すぎて点にしか……あ、光った。」
「通信途絶……墜ちたか。」
「これでは自爆ドローンですね。」
「電池はリチウムだし機体はマグネシウム合金だから、確かに燃えやすいか……。」
「ミントさん、着陸しないなら、それこそ固定翼機の使い捨てで良いのでは。火薬積んだら海賊退治にもなる。」
「模型飛行機の分冊百科とかあったかな……例えば『週刊 零式艦上戦闘機をつくる』か。」
「本棚の空母みたいに毎号プラモデルが付いてくるのか。」
「部品を集めて作るタイプです。が、そう大きくは無いため、火薬を積んで海賊に突っ込ませるには威力不足です。火薬の原料は肥料を流用できますし、ダンジョン内で調合すれば爆発しませんが。」
「ただなぁ、ゼロ戦ってのが特攻っぽくて何かなぁ。」
「マスター、『カミカゼドローン』っていうのは一般的な言葉ですし、無人機ですからそこまで気にする必要は無いでしょう。」
「館長、殺傷力を持つ程火薬を積むには、ある程度大型化しないといけません。そうなると、体重の軽い側近書記殿なら乗ることが出来ますし、名前付きモンスターなら復活可能なので理論上は自爆攻撃も問題無く可能でしょう。」
「ミント、わたしはそんな物のには乗りません。無人機で十分でしょう。」
「ま、それでも課題は山積か。それに、無人でも巡航ミサイルと何も違わないな。」
「結局、産業基盤の制約により、今は馬が一番なんでしょうね。この自爆ドローンも偵察補助には有用でしょうけど。」
実は霞ヶ関は西側の町で、東の涸れ川を越えてすぐにあるのは地方領主の城と城下町
(明日は休載です)




