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第二十五話「大歓迎」

「青火姫様。日善カズト様。宿泊施設に到着しましたのでお降りください」


 侍の女性の案内に従って特別護送車から降りると、そこには俺とアオの当面の生活の場となる高層ビルが建っていた。


 ……というかここって、この辺りでも、いやこの学園都市惑星ミチマサでも最高級の高級宿泊施設じゃないのか? 利用するは貴族や政界の大物ばかりで、警備態勢や利用客のもてなしは下手な侍の屋敷の上をいき、宿泊費用は最低でも通常の旅館の三十倍を超えるって噂のここでしばらく暮らすっていうのか?


『ようこそおいでくださいました。青火姫様。日善カズト様』


 高層ビルの入り口では、使用人だけでなくここの支配人と思われる老紳士までもが勢揃いで整列していて、俺とアオが姿を見せると完全に同じタイミングで礼をして出迎えてくれた。


 は、入り辛い。庶民の俺にはこの雰囲気は辛すぎる……!


「青火姫様。日善カズト様。こちらです」


 侍の女性に案内されて宿泊施設に入り、エレベーターに乗ると侍の女性は懐から一枚のカードを取り出してボタンの下にある差し込み口に差し込む。


 ゴゥン。ゴゥン。ゴゥン。……チン。


 侍の女性がカードを差し込むとエレベーターは上に昇り、最上階の更に上に昇ったところで止まって扉を開いた。……って、最上階の更に上?


「青火姫様と日善カズト様にはしばらくここで生活してもらいます」


 エレベーターを出ると、宿泊施設の屋上に何やら一軒の豪邸があったのだが……何コレ?


 あの……この豪邸は一体?


「この家は限られた方々がお忍びで長期滞在する時に使用する場所です。青火姫様と日善カズト様は就寝する時はここを使ってくれることと、この宿泊施設の出ないことを約束してくれるのでしたら、この宿泊施設をご自由に使ってもよいと言われています」


 ……………ハイ?


 俺は一瞬、この侍の女性の言葉が理解できなかった。


 この宿泊施設をご自由に使ってもよいって……他の利用客は?


「いません。しばらくこの宿泊施設は青火姫様と日善カズト様の貸し切りですので」


 貸し切り!? この超高級宿泊施設を!? そんなこと出来るんですか!?


「お二人の安全のためです。日善カズト様はまだ自覚がないかもしれませんが、神霊である青火姫様を宿された貴方はもう天文帝国にいなくてはならない存在なのです。それをご認識ください」


 侍の女性の言葉に俺は言い知れぬ重圧を感じた。ここまでくるともう怖いのですけど……。


「何で? 向こうが私達を歓迎したいって言うなら素直に甘えたらいいじゃない?」


 アオ。お前のそういうところがたまに凄く羨ましく感じるよ。


「ここで生活する間はお二人のお世話は私がさせてもらいます。……ではお二人のお部屋に案内しますのでついてきてください」


 あっ、はい。分かりました……って、そうだ。


「どうかしましたか?」


 いえ、その貴女の名前を聞いてもいいですか?


 気づけば俺は神鳴寺機甲鎧戦術教導院からここに来るまで彼女の名前を聞いていなかった。当面の間、俺とアオの面倒を見てくれるというのなら名前くらい聞いた方がいいだろう。


「……そうですね。確かにまだ名乗ってはいませんでしたね。これは失礼しました」


 侍の女性はそう言って頭を下げると、次に俺の目を見ながら自己紹介をする。


「私の名前は『火藤緋乃』と言います。どうかよろしくおねがいします」


 こちらこそよろしく……って、火藤? 火藤って「あの」火藤ですか? 「火」に「藤」と書いて火藤ですか?


「………ええ、そうです」


「カズト、知っているの?」


 知っているもなにも、火藤家っていったら天文帝国でも指折りの名家だよ。居住可能惑星を五つも支配している上位の侍の家だ。


 それに火藤は……。


「……お部屋に案内します」


 俺がアオと話していると侍の女性、緋乃は無表情で豪邸の中に入っていった。

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