第十七話「先制攻撃」
自分の身体の一部となった機甲鎧に命令を送ると、機甲鎧は俺の命令に忠実に従ってゆっくりと機体を動かし、整備用の台座から離れる。
早く格納庫の外に……ん?
格納庫の出口に顔を向けると、出口に集まっていた修理や花山先生を初めとする皆が、悪霊獣の襲撃も忘れて驚いた顔でこちらを見ていた。まあ、それも仕方がないか。
皆、出口から離れてくれ。今から外に出る。
機甲鎧を動かしながら呼び掛けると皆はほとんど反射的に道を開けてくれて、俺がそのまま格納庫の外に出ようとすると……、
「カズト!」
足元で修理が大声を出して俺は思わず機甲鎧を止めた。
「カズト……お前、侍だったのか?」
……違う。俺は侍じゃない。ただ、機甲鎧を動かせるだけだ……。
俺はそう答えるだけで精一杯だった。
「そうか……。よし、分かった!」
修理?
「お前が侍でもそうじゃなくても今はどうでもいい。だけどお前は機甲鎧に乗れる。だから俺達の命はお前に預ける! 負けるんじゃねぇぞ!」
いつものような人懐っこい笑顔を浮かべた修理の応援。
それだけで俺の中の何かが軽くなった気がした。
「修理ってば、結構いい友達だね」
そうだな、アオ。……行ってくる!
修理にそれだけ言って格納庫の外に飛び出すと、外での機甲鎧と悪霊獣の戦いは機甲鎧の劣勢となっていた。
くっ! さっきまではまだ善戦できていたというのに! このままだと全滅してしまうぞ!
「キャアアアッ!」
っ!? 悲鳴?
「カズト! あそこ!」
アオが左を指差してそちらを見ると、一体の機甲鎧が悪霊獣に組み敷かれて別のもう一体の悪霊獣の爪に貫かれようとしていた。
さ、せ、るかあああああっ!
機甲鎧が悪霊獣に殺されそうになっているのを見て、俺は考えるよりも先に駆け出すと、助走の勢いをつけて機甲鎧に爪を突き立てようとしていた悪霊獣を蹴り飛ばした。
「ーーーーー!?」
俺に蹴り飛ばれた悪霊獣が、人間には聞こえない声で悲鳴を上げながら飛んでいくのを確認すると、俺は両腕の刀剣を展開。そしてそのまま……、
「ーー!? ーーー!」
遅い!
機甲鎧が組み敷いていた悪霊獣が機甲鎧から離れて行動を起こす前に刀剣を振るい、悪霊獣の首を一太刀で切り落とした。首を切り落とされた悪霊獣は一瞬だけ体を硬直させた後、すぐに黒い霧となって空中に散っていった。
「わおっ!? カズトってばつよいじゃない!」
気を抜くな、アオ。まだ一体倒しただけで、悪霊獣あと九体も残っている。そこの機甲鎧、無事か?
「え、ええ……。その、ありがとう……」
声の口調から察するに機甲鎧に乗っていた侍は女性らしく、よろよろと立ち上がりながら俺に礼を言う。
俺は機甲鎧の女性に気にするな、と短く言うと悪霊獣に視線を向ける。
先制攻撃はとりあえず成功。ここからが本番だ。




