第十五話「決意」
校庭に降り立った三体の悪霊獣。全身が真っ黒で顔の表情も体の表面の様子も分からない立体化した人の影のような姿は、十年前に見た悪霊獣と全く同じだった。
「おい、カズト!」
悪霊獣を見ていると青ざめた表情をした修理が俺の肩を掴んできた。
「さっきから何大声で独り言叫んでいるんだよ!? 早くここから逃げるんだよ!」
「皆さん、落ち着いてください。落ち着いて校舎の中に避難してください。急いで!」
修理の声に続くように、花山先生が生徒達に避難を呼び掛ける声が聞こえてくる。残った七つの悪霊獣の核も悪霊獣になりかけているし、これはもう一刻の猶予もなさそうだな。……ん?
ガシャン! ガシャン!
音がした方に視線を向けると、校庭に数体いた機甲鎧の五体が悪霊獣に向かって行くのが見えた。悪霊獣に向かっていく五体の機甲鎧は、全てが両腕の格闘戦用の刀剣を展開していて、あれで悪霊獣と戦うつもりなのだろう。
「機甲鎧が悪霊獣に向かっていくぞ!」
「俺達助かるのか?」
「がんばれー! 負けるなー!」
五体の機甲鎧が悪霊獣へと向かって行く姿を見て生徒達が応援をするのだが……あの五体の機甲鎧、どれも動きが鈍くないか? 乗っているのが生徒なのか教員なのかは知らないけど、あんな動きじゃただでさえ数で負けている悪霊獣に対応できないぞ。
「へぇ、カズトってば分かるんだ」
口に出してしまったのかアオが驚いたような、感心したような表情を俺に向けてくる。
「うん。そうだよ。カズトが思ったようにあの侍達じゃ悪霊獣には勝てないよ。だって全員操縦が下手だし、ZINの量も少ないからね。というよりさっきから探っているんだけど、この学園から強いZINが感じられないんだよね。……もしかしたら今日に限って強い侍達全員が留守にしているのかな?」
アオか唇に指を当てて不吉極まりない予想を口にする。だが俺にはアオの予想が当たっているようにしか思えなかった。
『カズト。もうお前は十分苦しんだ。だからもう侍の世界に関わる必要はない。もう死んでしまったお前の兄弟、友達の分まで平和な人生を送っていいんだ』
……義父さん。俺は……。
「お、おい。あれ……」
修理が震える指で校庭を指差す。校庭では五体の機甲鎧が悪霊獣と戦っていたのだが、戦いの様子は機甲鎧側が圧倒的に不利だった。
ガガッ! ガキィン! ドガッ!
激しい戦闘音が耳を打つ。
校庭にはすでに十体全ての悪霊獣が出現していて、悪霊獣は機甲鎧一体に二体がかりで攻撃をしかけていた。機甲鎧の方も今はなんとか応戦をしているが、そう長くないうちに悪霊獣に敗れてしまうのは誰から見ても明白だった。
駄目だ。このままじゃ誰も助からない。俺達も、あの侍達も。せめてもう少し戦力があれば……。
……………アオ。
「何? カズト?」
俺とお前が機甲鎧に乗れば、ここにいる皆を逃がす時間を稼げるか?
「当然♪ というかカズト? 私、神霊だよ? 天文帝国の神様、勝利を呼ぶ女神だよ? 私が一緒だったら時間稼ぎどころか、あの悪霊獣を倒すののも余裕だって♪」
アオって勝利の女神だったのか。初めて知った。
分かったよ、アオ。
……俺に力を貸してくれ。




