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第三話 本体

第三話目です!

「愛人ってそんな歓迎されるものじゃない気がするんですけど…」


「ここは特別だからな」

それが理由として正しいのであろうことはこの景色を見ればわかる。


翠狐の方を見ると淡い光が頬に反射し神秘的なオーラが際立っていた。



「狐の愛人にはしてもらいたいことがあるんだ」


「してもらいたいことですか?」


「まずは、肩揉み」

言われた通りに肩を揉む。

神様の体に触れられるのはなんとも変な感じだが、思ったよりも人間に近い。


「次は、お茶入れて」

近くにあった急須から茶碗にお茶を入れる。


「で、その次が、幽閉させてくれないか」



「え?」








騙されたのか…?

暗い部屋の隅で千歳は頭を抱えた。

とはいえ、今いる部屋はあまり汚くなく、むしろ清潔感があった。




やることもなく呑気に眠気が襲ってきて目を閉じようとした時…。

「すまない。こんな扱いになってしまって」


重い瞼を開けると部屋の扉を開けて着物を着た中性的な男が入ってきた。

髪は金色で短く、顔は可愛らしくが見えるが鼻が高いのでキリッとしているように見える。


「あの、狐様は…?」


「狐様…と呼ばれるのは僕のことだ」


狐様が二人いるってこと…?

その疑問を感じ取ったように男は答えてくれた。


「翠狐は僕の化身。本体は僕」


「本体…」


「ここまで連れてきてもらったんだ」


目を細めて微笑む男、狐様はとても艶めかしく華があった。そんな彼に見惚れていると、頭を優しく撫でられた。



「彼は愛人…なんて言ってたかもしれないけど、こちらの世界では違う呼び方をするんだ」



「違う呼び方…?」



「鍾愛《しょうあい》の娘」


しょう、あいの娘…聞き慣れない言葉に首を傾げる。

「大事にするってこと。千歳、僕の名前は白狐《びゃっこ》。神様の使いから神様になることを許された狐だ」



白狐は誇らしげに言うと千歳を抱きしめた。

「鍾愛の娘を蔑ろにする奴は許さないからね」


「ありがとうございます…?」


「おいで、花を見せてあげる」

千歳の手を握り、歩き始める。

屋敷の外に出るらしく下駄を渡されてそれを履く。



コツコツと足音が屋敷の庭園に響く。

石畳の上を歩いていくと、土だけの花壇があった。



「見ててね」


白狐がそういうと、先ほどまで何も咲いていなかった花壇から光の花々が美しく芽吹き、咲き誇った。



「うわぁっ」

あまりの綺麗さに目を見開き、花壇に近づいた。

近くで見ると、さらにキラキラと光っている。

「すごい、綺麗です」


「これは神様が使う力の一つの使い方なんだ。世の中、いい人も悪い人もいるようにいい神様も悪い神様もいる。それは力の使い方次第だから、僕はいい方に使いたい」


しゃがみ込んで、花を見つめる千歳の横にしゃがむとそっと顔を近づけていく。


そして、唇が千歳の唇に当たった。

いきなりのことに鼓動が早くなり、顔を赤くする千歳がかわいいなと思いながら、柔らかく頬を撫でた。


千歳は今度はくすぐったいと顔を少し動かした。




「ようこそ。光の都こと狐の宝箱へ」



これは本当に歓迎してくれているんだな、と千歳を見つめる瞳が語っている。



「ありがとうございます」千歳は緊張が解けて、素の笑みを返した。








「千歳の部屋はここだよ。気に入らないところがあれば言ってね」


案内された部屋は畳の上に豪奢な棚や鏡台などがあり、部屋の真ん中には御簾で仕切られた寝室があった。



そういえば、と気になったことを尋ねてみることにした。

「狐様…翠狐様は白狐様の化身とおっしゃっていましたが、性格が違いますよね…?」


失礼に感じるかもしれないが、不思議で仕方がなかったのだ。

このまま聞かなければ、夜しか眠れないかもしれない。


「あーね、どうやら化身になる間に何かおかしな変化が起こっているらしくて、僕よりも強気な性格になっちゃった」



「そうなんですね」


「………さてと、僕も部屋に戻るよ。何かあれば、廊下を通ってる使用人にでも話しかけて」


「はい、分かりました」



そう言って部屋から出ていってしまった白狐。



「もう訳がわからない……」

一人になった部屋でひとりごつ。

狐様のもとへ向かったら、狐様の化身に会うし、綺麗な橋を渡ったら神秘的な街が出てくるし…そしたら、幽閉されて狐様本体に会って…。


今までの人生で経験したことがない情報量に疲れが溜まっていたのか、千歳はそのまま気絶するように眠ってしまった。









「おはようございます千歳様」


そんな声で目が覚めて、体を起こしてそちらをみると使用人と思しき女性がこちらを見ていた。


驚いて、声が出ずに見つめ返していると、その女性はふっと顔を緩めて笑みを作った。

「今日から千歳様に鍾愛の娘としてのいろはを教えることになりました。風夏《ふうか》です」


「いろは…。えっと、よろしくお願いします…」



「千歳様はまだ鍾愛の娘の役割をご存知ありませんよね?」


「はい」

役割とはなんなのだろう。

身構えているといとも簡単なことを言うように風夏はそれを教えてくれた。


「毎日、五時間舞い続けるのです」


「は…?」


「鍾愛の娘は舞を舞うことで意味をなします。ここへ来る間に光が宙を彷徨っているのを見ましたよね?その光たちは、舞を舞うことで集まってくるのです。そして、その光から得られるエネルギーを利用して私たちは生活しています」


つまり、舞は生活必需品ということか。



「あの、それにしても五時間って…」



「この都全部を養っていますから、それくらいでないと集まらないのです。それでは、舞に必要な体力からつけていきましょうか」


千歳はその言葉にため息をついたのであった。



つづく

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