第二話 お断りします
第二話目!よろしくお願いします!
「好きになりたい…?」
「俺には妻がいる。だが、その妻とは…疎遠だ。だから女を所望した」
神様の妻の存在も気になるが、愛人というと正式な側妻ではない。
疎遠になっているとは言え、その奥さんにバレたらまずいのでは…と千歳は心配になった。
「千歳には愛人になって欲しい」
「………お断りします」
「…理由は?」
まぁ、受け入れられるとも思っていなかったようで優しい声色で尋ねてくれる。
「………」
神様相手に失礼など働けない。
先ほどまで信じていなかったが、こんなに人とオーラがかけ離れている人、神と言わずしてなんというのだろう。
「…分かってる。これが初対面の相手にする話かと言われたら間違っていることも」
神様なのに、なぜだろう。
人と平等な目線に立ってくれている気がする。
「神として、できるだけ千歳の気持ちに寄り添った形で迎えたい。だから、教えて欲しい」
そんなに純粋な瞳を向けられては話してしまうではないか。
いや、もしかしたら神特有の技なのかもしれない。
「……その怖いです。神と愛人関係になることが。もし、狐様の奥様にバレたりでもしたらと思うと…」
そこで言葉を詰まらせると、千歳は俯いた。
「そこはあまり気にしないでもらいたい」
深い理由は言わないことから、知られたくないことがあるのかもしれないが、やはり気にしないでと言われても気にしてしまう。
「…けど、」
「翠狐様、光の音が到着しました」
千歳の声に重なるように突然凛とした声が響いた。
そちらを見ると、手のひらくらいの大きさの男性が宙に浮いていた。
「式神の竜だ。ちょうど光の音が到着してしまったな」
なんだその視覚か聴覚か分からないものは!?
千歳はツッコミたくなったがなんとか抑えた。
「外に来てくれないか…の前にこれに着替えて欲しい」
美しい空色の絹の布にツルの刺繍をしてある着物を差し出した。
「外で待っている」
戸が閉まり、千歳は着物を見つめた。
綺麗な色…。
狐様の正体は思っていたよりもずいぶんと若い神様だった。
それにしても、綺麗な顔だったな。
初めは緊張で顔が見られなかったが、よくよく見ると黄金比の整いすぎているくらいに美しい顔だった。
あの方の愛人…。
複雑な気持ちになりつつ着替え始めた。
着替え終わり、戸を開けるとあたりに広がる景色に圧倒された。
「…これ、が光の音…?」
気がつけばあたりは暗く、その暗い夜空に向かって光で出来た花が咲き誇った橋が伸びていた。
その橋に近づくと、爽やかな草原に来たかのような気分になり、それが光の橋が発する謎の音の効果だと分かった。
「こっちにこい。光の都に案内する」
翠狐が千歳に向かって手を差し伸べてくる。
その手を取った千歳はゆっくりと光の橋に一歩踏み入れる。
ふわりとした不思議な感覚が、癖になりそうでどんどん歩みを進めていく。
歩くたびに鈴の音のような小鳥のさえずりのような音が鼓膜をくすぐった。
幻想的な空気に呑まれていくのが分かる。
「今すぐには愛人になろうと思わなくてもいい。けど、少し考えてくれると嬉しい」
手を握り、二人は光の橋を歩く。
しばらく歩いていると、橋の終わりが見えた。
「行き止まり?」
「いや、ここからが本命だ」
翠狐は手を宙にかざすとそこから光の粒子が溢れ出し、立派な都が現れた。
光に包まれたその街は絵巻物で昔見たことがあった。
それが実在するなんて、誰が思うのだろうか。
「ここが我が家。俺の街だ」
良かったかもしれない、狐様のところに向かうことになって本当に良かったのかもしれない。
この世界にこのようなところがあったのかと思うくらい現実離れしたこの街。
一面神社のような街並みで、だけど、光源の分からないふわふわとした光が宙に浮かぶ様子はなんともおかしく見える。
「今から上に行くから離れないで」
翠狐が空を指差しながらそう言った。
「どうやっていくんです、」
そこまで言ったところで手を繋がれて一気に浮上した。
「浮いてる?」
不思議だ。
人が空に浮かぶなんて。
この世界はどうやら先ほどまでいた世界と理が全然違うようだ。
「上に俺の屋敷がある」
さらに上へと行くと竜宮城のような屋敷が出てきた。
「あの社は、あっちの世界の別荘みたいなものでこっちが本宅だ」
ようやく足をつける地面が出てきてゆっくりそこに着地する。
「千歳、ここで暮らして欲しいんだ」
「ここで…?」
煌びやかな屋敷を指差しながら千歳は疑うように言う。
「あぁ。俺の愛人として歓迎する」
つづく




