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第一話 狐様

よろしくお願いします!

___日本でいう明治時代あたりのこと___



狐様という正体不明だがこの辺りの地域の人々が揃って崇拝している神様がいた。


その狐様はこの地域の一番高いところ祝詞山《のりとやま》の頂上で民を見守っているという伝承が二千年前から代々この地域に伝えられている。


そして今日はその狐様を尊ぶ祭、狐喜祭(きつねきさい)。



祝詞神社の神主が狐様に感謝の言葉と共にたくさんのお供え物を献上する。



「狐様、我々民をお守りくださりありがとうございます」

神主の言葉と同時に巫女たちや地域の有権者も頭を床につける。


「狐様、今宵ぜひご所望の品を申されてください」

狐喜祭のあった夜、神主は狐様から眠っている時にお告げがあるという。








そして、その夜………。


『女を所望する』



そのお告げを受け取った神主はとても困惑したという。今まで、生贄のように女を渡したことは一度もなかった上に狐様には古来から妻がいるという伝承があったからだ。


「愛人にするため…なのか?」


眉をひそめた神主だったが、狐様命だ。言う通りにするしかないと狐様に適当な女を探すことになった。







それによって選ばれたのが…私である。







「山の頂上まで歩いて行ってくれ。誰も山の上には行ったことがないからどうなっているかは分からないが…頑張ってくれ」


神主が私、百合原《ゆりはら》 千歳《ちとせ》の肩に手を添えながら激励の言葉をくれた。


その後ろで街の人たちが見守っている。


なにせ、狐様が人を所望するなんて前代未聞だ。

みな、不安げな表情をして千歳を見ていた。





山を登って歩くこと、一時間。

ようやく社と思われる建物を見つけた。


荒れた息を整えて社の門の前に立ち、神主に言われた通り着ていた服を脱ぎ、裸になった状態で言葉を放った。



「狐様、参りました」




……狐様に会う時は女ということを証明するためにも衣服を脱げ。


神主の言葉を思い出す。

だが、ここまで来ていてなんだが千歳はそもそも狐様など、信じていない。

もう少し待って何も起こらなかったら下山するとしよう。



そう思っていたのに…。



「よく来たな」


背後からよく通る低めの声が聞こえてきた。



「…っ」

驚いて後ろを振り返ると、若い男が立っていた。


「俺が狐様…狐の神、翠狐《すいこ》だ」

女の素っ裸を前に真顔で自己紹介をするその男はどうかしているとしか思えない。



「名前はなんだ?」

構わずに名を尋ねてくる。


「千歳…」

恐る恐る千歳は名前を口にした。

千歳の名前を聞いた狐様…翠狐はゆっくりと近づいてくる。

その姿が迫ってくるのを千歳は恥じらいも忘れて恐怖が心を染めながら、見つめた。




「その格好だと、冷えるから入れ」

社の戸を開けると中に入って行った。


千歳は警戒心でいっぱいになりながら山を登りやすいようにと着てきた茶衣着をパッと着ると中に入った。



薄暗い社の中は外から見たよりも新しい作りをしており、整えられている。



座れ、と言われて部屋の真ん中に鎮座する囲炉裏の近くに正座した。

神の家。

緊張で口の中が渇いてきた。


鼓動が早くなるのを感じ、想像以上に自分の体はこの環境から逃げたいと思っているようだ。


「あの…狐様、私は何をすればいいんでしょうか」

いたたまれなくなって話しかけてみる。




「……お前には俺の愛人になって欲しいと思っている」



突然何を言い出すかと思えば愛人になって欲しいと。

訳がわからなくて開いた口が塞がらない。

翠狐はそんな千歳を近くの壁まで追い詰め、壁に手を置いた。俗にいう壁ドンというものに千歳は戸惑う。


生まれて十八年壁ドンをされたことがない。





「千歳を好きになりたい」



狐様はとても真剣な顔でそう言った。


つづく

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