HAMBURGER BLUES 第2話 銀河一うるさいDJとダブルチーズバーガー
HAMBURGER BLUES 第2話 銀河一うるさいDJとダブルチーズバーガー
カラン
カランカラン
店内の空気が揺れた
扉より先に声が入ってきた
「腹が減ったトォォォォォル!!!!」
Walker
「うるせぇ」
bads
「鼓膜が死んだ」
cool
「……すぅ」
beem
「いらっしゃい」
入口には巨大な影
天井すれすれの身長
白銀色の長髪
大樹のような腕
トール族
スノーだった
黒城で知らない者はいない
Club One
毎週末
午前三時
銀河最大級の熱狂を生み出す伝説のDJ
DJ SNOW
本人である
「久しぶりトール!!」
beemが笑う
「生きてたトール!!」
「死ぬ理由が無いからね」
「哲学者みたいな事を言うなトール!!」
Walker
「哲学を安売りするな」
「安売りしてないトール!!」
「お前誰トール!!」
「Walker」
「覚えたトール!!」
「忘れていい」
badsが鏡を見ながら言う
「ねぇ私今日髪型変えたんだけど」
「最高トール!!」
「ほんと!?」
「銀河一綺麗トール!!」
「好き」
Walker
「早いな」
cool
「……すぅ」
「起きろトール!!」
スノーの声で店内のグラスが震える
coolがゆっくり目を開く
「……朝ですかぁ……」
「夜だトール!!」
「良かったぁ……」
再び寝る
「何しに来たの」
Walker
「もちろんハンバーガートール!!」
「そして文句を言いに来たトール!!」
beem
「また法律?」
「そうトール!!」
スノーが怒鳴る
「ベラ第三商業法第八十二条!!」
「深夜一時以降!!」
「踊りながらラーメンを食べてはいけないトール!!」
Walker
「当たり前だろ」
「何故トール!!」
「危ないから」
「自由とは何だトール!!」
「ラーメンをこぼさない事」
「浅いトール!!」
bads
「私は法律より髪型規制をやめてほしい」
「ヘアリアじゃないんだから」
「ベラは自由トール!!」
「自由じゃないよ」
Walker
「先週だって」
「空飛ぶヤギに運転免許証が必要になった」
「意味不明トール!!」
「意味を求めるな」
「ここは黒城」
全員が頷く
coolだけ寝ている
スノーが胸を張る
「だがトール!!」
「俺には法律を超える存在があるトール!!」
Walker
「また始まった」
「音楽トール!!」
「今週末!!」
「Club One!!」
「午前三時!!」
「銀河最大のパーティートール!!」
「七万人が踊るトール!!」
bads
「七万人!?」
「盛ったな」
Walker
「六万八千人トール!!」
「微妙に現実的」
「俺が回せば宇宙が揺れるトール!!」
「ブラックホールも踊るトール!!」
「星雲がリズムを刻むトール!!」
「前回は市長が失神したトール!!」
beem
「それは良い事なの?」
「最高トール!!」
Walker
「駄目だこいつ」
beemは静かに肉を取り出す
「何食べる?」
スノーは真剣な顔になる
「今夜は」
「魂を揺らすバーガートール」
店内が静まる
beemが頷く
「分かった」
「今日は新作だ」
Walker
「また?」
「今朝完成した」
「塩を二種類減らした」
Walker
「増やして減らした?」
「引き算の足し算だよ」
「意味が分からない」
beemは静かに語り始める
「肉はね」
「音楽と同じなんだ」
Walker
「出た」
「火入れはリズム」
「塩は高音」
「ソースは低音」
「ピクルスは間」
「バンズは静寂」
「全部揃って初めて」
「一つの宇宙になる」
スノーの目が輝く
「……分かるトール」
Walker
「分かるのかよ」
「DJも同じトール!!」
「キックが肉トール!!」
「ベースが塩トール!!」
「観客がソーストール!!」
「俺は火トール!!」
beem
「良いね」
Walker
「何この共鳴現象」
bads
「私の髪型は何?」
全員
「今じゃない!!」
十分後
巨大なダブルチーズバーガーが置かれる
スノーは静かになる
初めてだった
巨大な手で持ち上げる
一口
二口
三口
沈黙
誰も喋らない
coolだけ寝ている
やがて
スノーの目から涙が流れた
「……美味いトール」
「これは」
「音楽トール」
「宇宙トール」
「人生トール」
beem
「肉だよ」
Walker
「全部肉に戻すな」
スノーが立ち上がる
「決めたトール!!」
「今週末!!」
「全員来るトール!!」
「Club One!!」
「朝まで飲むトール!!」
bads
「行く!!」
Walker
「行かない」
「行くトール!!」
「行かない」
「VIP席トール!!」
「……少しだけ」
beem
「新しい刺激も必要だね」
cool
「……酒ありますかぁ……」
「あるトール!!」
「行きますぅ……」
──
その夜
Club One
午前三時
黒城中のネオンが揺れ
七万人か六万八千人か分からない観客が叫び
スノーが宇宙を回し
badsが踊り
coolが寝ながら酒を飲み
beemが知らない料理人と肉について語り
Walkerだけが静かに全てを観測していた
夜明け前
ベラへ帰る路地裏
全員が酔っていた
誰も真っ直ぐ歩けなかった
それでも
良い一日だった
Walkerが空を見上げる
「結局」
「ベラの法律も」
「スノーの自慢話も」
「店長の肉理論も」
「全部めちゃくちゃだった」
「でも」
「混沌ってのは」
「案外悪くない」
「理解できないものがあるから」
「また明日も喋れる」
「だから」
「多分」
「私たちは」
「明日もWAGYU BURGERに集まる」
「それで十分なんだと思う」
カラン
カランカラン
まだ誰も帰っていないのに
風だけが扉を揺らしている




