聖剣ってなんで教会にあるの?
カン。
カン。
カン。
工房に金槌の音が響く。
親方は作業台で鉄を叩いていた。
その時、工房の扉が勢いよく開いた。
「ねぇ親方!」
親方は顔を上げる。
「親方じゃないけどなに?」
それから少し首を傾げた。
「って、その前に挨拶じゃない?」
少年はハッとする。
「あ、おはようございます」
「おはよ」
親方は少し笑った。
「それで?」
少年は工房へ入ってくる。
「聖剣ってなんで教会にあるんですか?」
「急だねぇ」
「今朝シスターに聞いたんです」
少年は壁に立てかけてあった箒を取ると、床のゴミを掃き始めた。
「あの剣はなんですかって聞いたら」
「聖剣ですって」
親方は頷く。
「うん」
「それで」
「聖剣ってなんですかって聞いたら」
「神のもたらした奇跡ですって」
親方は少し考えた。
「ほう」
「どういうことですかって聞いたら」
少年は少し困った顔になる。
「私もそう教えられたのですって」
親方は黙った。
しばらく考える。
「なるほどねぇ」
「分かります?」
「分からないねぇ」
少年は頷いた。
「ですよね」
カン。
カン。
カン。
親方は再び鉄を叩き始める。
しばらくして少年が言った。
「でも聖剣は勇者が持ってますよね」
「物語ではだいたいそうだねぇ」
「勇者は教会に住んでません」
「住んでないねぇ」
「なのに教会にあります」
親方は少し笑った。
「たしかに」
少年は箒を動かしながら首を傾げる。
「変じゃないですか?」
親方は金槌を置いた。
「神様にお祈りするのが教会だけど」
「はい」
「実は地域によって」
「その神様も様々なんだよ」
少年は目を瞬かせる。
「神様って一人じゃないんですか?」
「一人だって言う人もいるし」
「たくさんいるって言う人もいる」
「へぇ」
親方は少し考えた。
「だから昔は」
「どっちの神様が本物か」
「って喧嘩してた教会もあったらしい」
少年は驚いた。
「教会同士でですか?」
「みたいだね」
少年は少し考える。
「教会なのに?」
親方は少しだけ肩をすくめた。
「そこに居るのは人だからね」
少年は黙った。
親方は続ける。
「やりすぎちゃったら」
「剣を抜くこともあったのかもね」
「教会なのに」
「教会なのにね」
工房に少し静かな時間が流れる。
やがて親方が口を開いた。
「そもそも聖剣って」
「勇者の持ち物じゃない気がするんだよねぇ」
少年は顔を上げた。
「違うんですか?」
親方は少し考える。
「『聖』って」
「清らかとか」
「神聖とか」
「そういう意味でしょ?」
少年は頷く。
「はい」
「でも物語の勇者って」
親方は少し笑った。
「けっこう野蛮だし」
少年も少し考える。
「魔王を倒しますからね」
「倒すねぇ」
「剣でねぇ」
少年は思わず笑った。
「たしかに」
親方は窓の外を見る。
「だから」
「教会で何か大事なことに使った剣」
「だったのかもしれない」
「大事なこと?」
「儀式かもしれないし」
「戦いかもしれない」
「それは分からないけど」
親方は少し考える。
「何か大事なことに使ったから」
「祀ってるのかもね」
少年は箒を持ったまま、少し考えた。
教会の祭壇を思い浮かべる。
聖書。
花。
果物。
燭台。
そして、祭壇の横に飾られた剣。
「あぁ」
親方は頷く。
「その方が私はしっくりくるかな」
しばらく沈黙。
やがて少年が口を開く。
「じゃあ聖剣は勇者の剣じゃないんですか?」
親方は少し考える。
「どうだろうねぇ」
そして続けた。
「もしかしたら」
「教会にとっての勇者が」
「聖剣なのかもね」
少年は固まった。
「剣が勇者?」
「前に勇者の話したでしょ?」
「あぁ」
「勇者が出てくる物語でも」
「王様が勇者を決めてた話があった」
少年は頷く。
親方も頷いた。
「教会は人を祀らないからね」
「だから教会が」
「その剣を聖剣にしたのかもしれない」
少年はしばらく考え込む。
「なるほど」
親方は少し笑った。
「まぁ」
「全部私の想像だけどねぇ」
カン。
カン。
カン。
親方はまた鉄を叩き始める。
しばらくして少年がぽつりと言った。
「神様も大変ですね」
親方は首を傾げる。
「どうして?」
「喧嘩したら神様から叱られるそうですから」
「シスターがそう言ってたの?」
「はい」
少年は真面目な顔で頷く。
「だから喧嘩してる教会を見つける度に」
「お説教しなきゃいけません」
親方は吹き出した。
「そりゃ大変だ」
「大変です」
親方は笑う。
「神様も忙しいねぇ」
少年は窓の外を見る。
「忙しそうです」
「だねぇ」
カン。
カン。
カン。
工房に金槌の音が響く。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




