ハーフエルフってエルフじゃないの?
親方は細く伸ばした銀線を器用に編み込み、
花の形をした飾りを作っていた。
少年は窓際の木箱に腰掛けて本を読んでいる。
種族についてまとめられた研究書らしく、
様々な種族の特徴が書かれていた。
しばらく読み進めていた少年は、
聞き慣れない言葉を見つけて顔を上げる。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「ハーフエルフってエルフじゃないんですか?」
親方は少し目を細めた。
「珍しい本を読んでるみたいだね」
「ハーフエルフって珍しいんですか?」
親方は手を動かしながら答える。
「むしろ人間社会で暮らしてるエルフはほとんどハーフエルフだよ」
「珍しいのはその呼び方の方かな」
「他の種族から見れば違いなんて分からないらしいから」
「まとめてエルフって呼ばれるのが普通なんだよ」
少年は再び本に目を落とす。
「ここにはハーフエルフは正確にはエルフではないって書いてあります」
「そもそもハーフエルフってなんなんですか?」
親方の手の中で、
銀の花びらが少しずつ形になっていく。
「ハーフエルフは純血のエルフと他の種族の間に生まれた子供だね」
「学者さん達はそういう風に分類していて」
「実際にそう呼び分ける人も少なからずいるね」
少年は頷く。
親方は続けた。
「エルフはそもそも子供ができづらい体質だから」
「別の種族との間に子供を授かることの方が多いんだよ」
「だから人間の街で暮らしているエルフは自然とハーフエルフが増える」
「この本にもエルフは人口が少ないって書いてあります」
「そうだろうねぇ」
少年は少し考える。
そして気になったことを口にした。
「人間社会で暮らしてるエルフがほとんどハーフエルフなら」
「親方もハーフエルフなんですか?」
親方は小さく笑う。
手の中の花飾りをそっと作業台へ置いた。
「私は純血のエルフだね」
「両親ともエルフだったし」
「祖父母も国から出たことはなかったそうだから」
少年は目を丸くする。
「じゃあ親方って珍しいんですか?」
「珍しいんじゃないかな?」
「色んな場所を旅したけど」
「会うエルフはみんなハーフエルフだったね」
少年は首を傾げた。
「違いは分かりづらいんですよね?」
「親方には分かるんですか?」
親方は道具を手に取り、
再び銀線を編み始める。
「エルフ同士にはけっこう分かるものだよ」
「何が違うんですか?」
「んー」
親方は少し考えた。
「雰囲気かなぁ」
「なんとなく人間っぽいというか」
少年は本の挿絵を見る。
美しい顔立ちの長耳の女性が描かれていた。
「見た目じゃないんですね」
「見た目も少し違って見えることはあるよ」
「でもその辺りは個性でもあるからねぇ」
親方は肩を竦める。
「見て判断できる部分ではないけれど」
「分かりやすい違いは寿命かな」
「寿命ですか?」
「ハーフエルフは純血ほど長生きはできないそうだよ」
「どのくらい長生きなんですか?」
「それぞれけっこう違うみたいだからねぇ」
「人間よりずっと長生きする人は多いみたいだけど」
「そもそも純血のエルフの寿命自体が結構謎だからね」
「だから学者さん達も色々研究してるんだと思うよ」
少年はしばらく考え込んだ。
そしてぽつりと呟く。
「なんだか難しいですね」
親方は思わず笑った。
「そうだねぇ」
「だから私はあんまり細かく考えたことはないかな」
「学者さんに聞いたら違うって言う人もいるだろうけれど」
「私はひとつの種族をそこまで細かく分ける必要ないと思うんだよね」
「ただでさえ人口の少ないエルフがさらに少なくなっちゃうよ」
親方は完成に近づいた花飾りを光にかざす。
複雑に編まれた銀線が光を受けて煌めいた。
「ハーフエルフってけっこう多いんですか?」
「他の種族ほどではないと思うけどね」
「少なくとも人間社会では多い方なんじゃないかな」
「人間社会ですか……」
少年は少し考える。
そして前から気になっていたことを尋ねた。
「親方がどうして旅に出たのか聞いてもいいですか?」
親方はくすっと笑う。
窓の外へ視線を向けた。
「そんなに大層な理由でもないよ」
「私のいた国では人間の国とも交易があってね」
「持ち込まれた道具や書物を見ているうちに興味が広がったんだ」
「それで自分の目で色々と見たくなっちゃって」
「気付いたら荷物まとめて飛び出してた」
親方は懐かしそうに笑う。
少年から見る親方はいつも落ち着いて見える。
だからそんな話は少し意外だった。
「なんだか今の親方からは想像できません」
「失礼だなぁ」
親方は笑う。
少年もつられて笑った。
しばらくして親方は優しい声で続ける。
「まぁでも」
「そのおかげで素敵な経験も沢山したからね」
「若い頃の好奇心と行動力は大事にしてあげたいかな」
そう言って少年へ視線を向ける。
「だから君も興味のあることができたら」
「遠慮せずなんでも話してね」
「はい!」
少年は元気よく頷いた。
そして再び本へ視線を落とす。
その様子を微笑ましく見ながら、
親方も手元の花飾りへ視線を戻した。
一本一本の細い銀線は、
まだ完成には程遠い。
それでも少しずつ形になっていく姿は、
どこか眩しく見えた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




