↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの鍛冶屋―ねぇ親方― (世界の不思議を語り合う、1話完結の雑談ファンタジー)  作者: ぱられ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

魔法使いと魔導師って別のものなの?

少年は工房の掃除をしていた。


親方は炉の前から離れ、


作業台の横で涼んでいる。


先程まで炉へ向けていた風の魔法を、


今度は自分へ向けていた。


ゆるくまとめたミントグリーンの長い髪が、


風に揺れる。


それを眺めていた少年がふと口を開いた。


「ねぇ親方」


「親方じゃないけどなに?」


「魔法使いと魔導師って別のものなんですか?」


親方は風に当たりながら答える。


「似たようなものだけどねぇ」


「魔法使いっていうのは文字通り魔法を使う人のことだね」


「じゃあ親方も魔法使いなんですか?」


「そういうことになるのかもしれないねぇ」


親方は風の魔法を止めると、


近くに置いていた金槌を手に取った。


「それでも私は鍛冶職人だけどね」


「魔法は技術のひとつだから」


親方は指を折りながら数える。


「鍛冶職人」


「木工職人」


「織布職人」


「そして魔法職人」


少年は少し考える。


「じゃあどうして魔法だけ職人じゃなくて『使い』なんですか?」


「魔法は専門職というより色んな分野で使われる技術だからねぇ」


親方は笑った。


「例えば私の場合は魔法が使える鍛冶職人でしょ?」


「魔法職人の鍛冶職人って言うより」


「魔法使いの鍛冶職人って言う方がなんとなく言いやすい」


少年は少しだけ不満そうな顔をする。


「そんな理由なんですか?」


「本当のところは分からないけどね」


「呼び方なんて案外その程度の理由だったりするものだよ」


親方はそう言うと、


鉄の塊を炉の炭へ差し込んだ。


少年は赤くなり始める鉄を見つめながら、


もうひとつの疑問を口にする。


「じゃあ魔導師ってなんなんですか?」


親方は炉から目を離さず答えた。


「魔導師かぁ」


「言葉からの想像だけどね」


「魔法を正しい方向へ導く人のことなんじゃないかな」


「正しい方向ですか?」


「魔法って便利だけど危険な技術でもあるからね」


「誰かの役に立つ方向へ発展させたい」


「そう考えながら研究したり勉強したりする人達だよ」


親方は少し考えてから続けた。


「昔は魔法ってもっと感覚的な技術だったのかもしれない」


「感覚ですか?」


「うん」


「こうやったら出来た」


「なんとなく使えた」


「そんなものだったのかもしれない」


親方は肩を竦める。


「でも時代が進むと理由を知りたくなる人が出てくる」


「どうして使えるのか」


「どうすればもっと便利になるのか」


「そうやって理論として研究され整理されていった」


「それが魔導なのかもしれないねぇ」


炉から鉄を引き抜き、


金床へ置く。


カン。


カン。


カン。


工房に槌の音が響く。


「実際に魔導師って呼ばれる人は」


「研究者や学者が多いしね」


少年は納得したように頷いた。


しばらく槌の音を聞いていたが、


また気になることを思い付く。


「ところで『師』ってなんなんですか?」


「鍛冶職人も鍛冶師って言ったりしますよね?」


親方は数度鉄を叩くと、


再び鉄を炉へ戻した。


「『師』は文字通り師匠みたいな意味だね」


「その技術を教える人だったり」


「その分野を代表する人だったり」


「工房の責任者として呼ばれることもある」


親方は少し考える。


「技術を身につけるだけなら職人でもいい」


「でも誰かに教えたり導いたりする立場になると」


「『師』って呼ばれることが多いかな」


少年は感心したように頷く。


「だから私も弟子は取ってないけど鍛冶師ではあるね」


そこで少年が首を傾げた。


「僕は親方の弟子ですよね?」


親方は少し困ったように笑う。


「君はまだ弟子になれる年齢じゃないからねぇ」


「正確にはお手伝いかな」


「いつになったら弟子になれるんですか?」


親方は顎に指を当てる。


「弟子っていうのは働きながら技術を覚える人だからね」


「働く人?」


「工房で仕事をして」


「お給金を貰う」


「見習い職人みたいなものかな」


少年は目を丸くする。


「じゃあ僕も働きたいです」


親方は即答した。


「それは駄目」


「どうしてですか?」


「今は勉強したり遊んだりする方がお仕事だよ」


少年はきょとんとする。


「それもお仕事なんですか?」


「子供にしか出来ない大事なお仕事だねぇ」


親方は優しく笑った。


「君は鍛冶職人になりたいの?」


「ずっと見てますから興味はありますよ」


「魔法使いにも興味があったよね?」


「魔法はかっこいいですからね」


「教会のお仕事は?」


「それも興味が……あ」


少年は頭を抱えた。


興味のあることが多すぎる。


その様子を親方は微笑ましそうに見ている。


「今はまだ答えを出さなくていいよ」


「色んなことに興味があるのは悪いことじゃないからね」


そう言うと再び鉄を叩き始めた。


カン。


カン。


カン。


「まだ弟子じゃなくても親方って呼んでていいですか?」


少年が少し不安そうに尋ねる。


親方は吹き出した。


「魔法使いも魔導師も」


「鍛冶職人も鍛冶師も」


「さっきは色々説明したけどね」


「実際はみんな好きに呼び分けたりしてるんだ」


「呼び方なんて好きにしていいと思うよ」


少年の顔が少し明るくなる。


親方は悪戯っぽく笑った。


「だから私も好きに否定させてもらうけどね」


少年は少しだけ頬を膨らませる。


その様子がおかしくて、


親方は思わず笑ってしまった。


工房には親方の笑い声と、


鉄を叩く心地よい音が響いていた。


終


※本作は note にも掲載しています。

※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。