王様と貴族って何をしてるの?
カリ。
カリ。
カリ。
親方は薄い銀の板に細い針のような工具を当て、
慎重に模様を彫り込んでいた。
少年は近くの椅子に座り、
本を読んでいる。
しばらくして、
本から顔を上げた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「王様や貴族って何をしてる人なんですか?」
親方は手を止めずに答える。
「気になるの?」
「物語を読んでるだけだと」
「ちょっと偉そうな人だなくらいしか分からなくて」
親方は思わず吹き出した。
「本質的には間違ってないかもねぇ」
「そうなんですか?」
「だって沢山の人に指示を出したり」
「国を守ったり」
「豊かにしたりする人だからね」
「偉い人なのは間違いないよ」
少年は納得したように頷く。
親方は銀板へ視線を戻した。
「もちろん国によっても違うし」
「王様本人の性格によっても違う」
「中にはほとんどの仕事を他の人に任せて」
「本当に偉そうにしてるだけの王様も居るかもしれないねぇ」
少年は少し笑った。
「そんな王様も居るんですね」
「王様も人間だからね」
「結局は人それぞれだと思うよ」
少年は少し考える。
それから次の疑問を口にした。
「じゃあ貴族は何をしてるんですか?」
親方は頷く。
「貴族は王様のお手伝いをする人かな」
「お手伝いですか?」
「うん」
「いくら優秀な王様でも」
「国中を全部見て回るのは無理でしょ?」
少年は窓の外を見る。
工房の前の通りだけでも、
毎日色々な人が行き交っている。
「たしかに大変そうです」
「だから信頼できる人に任せるんだよ」
「自分の代わりに土地や街を見てもらう」
「それが貴族だねぇ」
少年は感心したように頷いた。
「貴族って色々呼び方がありますよね?」
「伯爵とか男爵とか」
「あぁ」
親方は頷く。
「任されてる土地や仕事の大きさは違ったりするけど」
「やってること自体はそんなに変わらないよ」
「王様の代わりに人や土地を守る人達だと思っておけば大丈夫」
「覚えるの大変そうです」
「私も全部は覚えてないねぇ」
少年は少し安心したようだった。
「この街にも貴族は居るんですか?」
親方は少し考える。
「領主様は少し離れた大きな街に住んでるね」
「この街には執政官が居るよ」
「しっせいかん……?」
少年は首を傾げる。
親方は苦笑した。
「この辺りの話をし始めると」
「どうしても難しい言葉が増えちゃうねぇ」
「今はこの街の偉い人も貴族だと思っておけばいいよ」
「分かりました」
少年は素直に頷いた。
親方は再び銀板へ工具を走らせる。
カリ。
カリ。
カリ。
少しずつ花の模様が浮かび上がっていく。
少年はそれを見ながら尋ねた。
「この街の貴族は偉そうな人ですか?」
親方は思わず吹き出した。
「どうだろうねぇ」
「でも」
そう言って手元の銀板を持ち上げる。
そこには綺麗な花の模様が彫り込まれていた。
「女の子にプレゼントを渡したいって」
「丁寧な手紙で依頼してくるくらいだから」
「案外普通の人だと思うよ」
「気になる女の子に花を贈るのは」
「貴族も平民も同じだねぇ」
少年は花の模様を見つめる。
「気になる女の子にあげるんですか?」
「そうみたいだねぇ」
「仲良くなりたいってことですか?」
親方は少し考えてから答えた。
「まぁそんな感じかな」
少年は納得したように頷く。
そして何かを思い出した。
「じゃあシスターにお花を渡してたパン屋のお兄さんも」
「シスターと仲良くなりたいんですかね?」
親方の手が止まった。
「ちょっと詳しく」
少年は不思議そうな顔で話し始める。
「たまに孤児院に来て」
「シスターにお花を渡してるんです」
「それで?」
「ありがとうございますって受け取った後」
「教会のシスター長に渡してますね」
親方は少しだけ遠い目をした。
「パン屋も大変だねぇ」
少年はよく分からず首を傾げる。
親方は小さく笑うと、
再び銀板へ工具を当てた。
カリ。
カリ。
カリ。
工房には静かな音が響いていた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




