騎士と兵士は何が違うの?
カン。
カン。
カン。
工房の中に金属を叩く音が響いている。
親方は真っ赤に熱した鉄を金床の上で叩いていた。
少年は箒を持って工房の掃除をしている。
窓際を掃除していた時だった。
ふと外を見る。
通りを武装した男が歩いていた。
手には槍。
背中には盾。
街の兵士だ。
少年は少しだけ緊張しながらその姿を見つめる。
すると兵士がこちらに気付いた。
軽く手を上げる。
「おう」
突然のことに少年は慌てた。
ぺこりと頭を下げる。
兵士は笑いながら通り過ぎていった。
少年はほっと胸を撫で下ろす。
そして掃除を再開した。
しばらくして、
ふと思い出したように口を開く。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
親方は鉄を叩きながら答えた。
「騎士と兵士は何が違うんですか?」
親方は少し考える。
「所属かな」
「所属ですか?」
「騎士は国のために働く人達」
「兵士は領主のために働く人達」
少年は首を傾げた。
「どっちも武器を持ってますよね」
「持ってるねぇ」
「戦うこともあるんですよね」
「場合によってはね」
親方は頷く。
「だから見た目は似てるけど」
「働いてる場所が違うんだよ」
「じゃあ騎士さんはお城にいるんですか?」
「いることも多いねぇ」
「でもお城だけが国じゃないから」
「大きな街だと騎士が常駐してることもあるかな」
少年はなるほどと頷いた。
「じゃあ騎士は兵士より偉いんですか?」
親方は鉄を炉へ戻す。
「そう見えることは多いかな」
「でも必ずしもそうじゃない」
「そうなんですか?」
「兵士の仕事は街や領地を守ることだからね」
「騎士から何か頼まれても」
「それで街が危険になるなら断ることもあるよ」
「もちろん普段は協力してるけどねぇ」
少年は驚いた。
「兵士さんが断るんですか?」
「役割が違うからねぇ」
「騎士には騎士の仕事」
「兵士には兵士の仕事がある」
親方はそう言って再び鉄を叩いた。
カン。
カン。
カン。
「兵士さんは普段何をしてるんですか?」
「この街だと色々だねぇ」
親方は指を折る。
「落とし物を届けたり」
「迷子を探したり」
「喧嘩の仲裁をしたり」
「酔っ払いを家まで送ったり」
少年は思わず笑った。
「なんだか大変そうです」
「大変だと思うよ」
親方も笑う。
「街の便利屋みたいなものだからねぇ」
少年は少し考える。
「みんなこの街の人なんですか?」
「領主様から派遣された人もいるけど」
「この街の出身者も多いよ」
「だから商店街の人達とも仲がいい」
「君も知らないうちに会ってるかもしれないね」
少年は窓の外を思い出した。
「魔物と戦ったりはしないんですか?」
「全く無いわけじゃないよ」
親方は頷く。
「でもこの街では」
「魔物が見つかったら冒険者ギルドに依頼が出ることが多い」
「冒険者さん達ですね」
「そう」
「この街の領主様は冒険者ギルドとうまく協力してるんだ」
「だから兵士は街の仕事に集中できる」
少年は感心したように頷いた。
しばらく考えてから、
少し申し訳なさそうに言った。
「実は兵士さんって」
「ちょっと怖い人達だと思ってました」
親方は笑う。
「体の大きな男の人が多いから?」
「武器も持ってますし」
「そうだねぇ」
親方は金槌を置いた。
「でも話してみると案外気の良いお兄さんやおじさんが多いよ」
「なにより」
「街のみんなが安全に暮らせるよう頑張ってくれてる人達だからね」
「怖い人から守ってくれる側の人だよ」
少年は窓の外を見た。
さっきの兵士の顔を思い出す。
「今まで怖い人だと思ってたので」
「さっきの兵士さんにも自分から挨拶すればよかったです」
「今度会ったら謝ろうと思います」
親方は首を横に振った。
「謝らなくていいよ」
「そうですか?」
「うん」
親方は優しく笑う。
「いつもご苦労さまですとか」
「ありがとうって伝えてあげて」
少年は少し考える。
「ありがとうですか」
「その方がきっと嬉しいと思うからねぇ」
少年は嬉しそうに頷いた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




