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エルフの鍛冶屋―ねぇ親方― (世界の不思議を語り合う、1話完結の雑談ファンタジー)  作者: ぱられ


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【特別編】ドワーフの鍛冶屋

商店街を抜ける。


市場を横切り、


さらに一本裏の通りへ入る。


そこは工房街だった。


木工、革細工、織布。


様々な工房が立ち並び、


あちこちから賑やかな声と音が聞こえてくる。


少年は珍しそうに辺りを見回した。


「すごいですね」


「職人の街だからねぇ」


親方は慣れた様子で歩いていく。


やがて工房街の端に、


一際大きな建物が見えてきた。


建物の正面には武器屋が併設されている。


入口には剣や槍が並び、


冒険者らしき客の姿も見える。


「大きな建物ですね」


「ここがドワーフの鍛冶屋だよ」


少年は目を丸くした。


「これ全部ですか!?」


「全部」


親方はあっさり答えた。


だが武器屋には入らない。


建物の横を抜け、


裏手へと回っていく。


そこには小さな中庭があった。


炭を運ぶ者。


木箱を抱える者。


鍛えた金属を運ぶ者。


忙しそうに職人たちが行き交っている。


「おう」


「お疲れ様ぁ」


親方はすれ違う職人たちと軽く挨拶を交わす。


少年も慌てて頭を下げた。


中庭の先には大きな工房があった。


何人もの職人が並び、


真っ赤な鉄を叩いている。


金属を打つ音が絶え間なく響いていた。


だが親方はそこも通り過ぎる。


さらに奥へ進むと、


親方の工房より少し大きい程度の建物が現れた。


親方は軽く扉を叩く。


返事は無い。


だが気にした様子もなく扉を開けた。


中には見慣れた光景が広がっていた。


作業台。


工具。


炭の入った木箱。


鉄の素材。


親方の工房と大きな違いはない。


ただ一つ違うのは、


壁際に立てかけられた武具だった。


大剣。


戦斧。


長槍。


どれも少年が持ち上げることさえ難しそうな物ばかりだ。


部屋を見回していた少年は、


炉の前にある黒い塊に気付いた。


その塊がゆっくりと動く。


煤まみれの肌。


丸太のような腕。


髭に覆われた顔。


黒い塊に見えたそれは人だった。


「やぁドワーフ」


「なんじゃエルフか」


二人は短い言葉を交わす。


それだけだった。


ドワーフは再び炉へ向き直る。


親方も何も言わない。


ただその背中を眺めている。


少年だけが戸惑っていた。


何か話をしなくていいのだろうか。


そう思って親方を見る。


親方と目が合った。


何かを言おうとした瞬間、


親方は自分の人差し指を口元へ添える。


どうやら待つらしい。


少年も慌てて口を閉じた。


炉の音だけが響く。


時折、


ドワーフが火加減を調整する。


鉄を取り出しては叩く。


また炉へ戻す。


その繰り返し。


親方は何も言わず、


ただ静かにその様子を見ていた。


しばらくして、


ドワーフがようやく立ち上がる。


背丈は少年と同じくらい。


だが横幅は倍以上ある。


近くの椅子を顎で示すと、


自分もドカリと腰を下ろした。


「で、なんじゃ」


「ちょっと叩いてほしい物があってねぇ」


「自分でやりゃええじゃろ」


「固くて面倒でねぇ」


親方はポケットから一本の金属棒を取り出した。


何度も叩いた跡はある。


だがほとんど形は変わっていない。


薄い金色の金属。


それを見た瞬間、


ドワーフの目がわずかに開く。


「オリハルコンか」


「私物なの」


「どこまでじゃ」


「ある程度の引き延ばし」


短い会話だった。


だが二人にはそれで十分らしい。


ドワーフは立ち上がる。


そして少年の前まで歩いてきた。


「坊主」


「は、はい!」


「邪魔じゃ」


少年は慌てて場所を空けた。


ドワーフは壁際へ向かう。


そこに立てかけられていた大きなハンマーを手に取った。


続いて小さなハンマーも持ち上げる。


「相槌ぐらい打て」


そう言って小さなハンマーを親方へ渡した。


親方は慣れた様子で受け取る。


「しばらくここで見ててね」


そう言うと親方も金床の前へ立った。


ドワーフはオリハルコンを炭の中へ突っ込む。


二人はそれ以上何も話さなかった。


少年はエルフとドワーフの仲がいいのか聞くつもりでここへ来た。


だが今はなんだか聞ける雰囲気ではない。


ただ黙って見守ることにした。


やがてドワーフがトングを引き抜く。


赤熱したオリハルコンが姿を現した。


金床へ置かれる。


親方が小槌で軽く位置を整える。


ココン。


小さな音が鳴った。


その瞬間。


ギィン。


大槌が振り下ろされる。


キン。


親方の小槌が鳴る。


ギィン。


キン。


ギィン。


キン。


ドワーフの力強い槌。


親方の小気味よい槌。


重い音と軽い音が交互に響く。


まるで最初から決まっていた曲を演奏しているようだった。


言葉は無い。


だが二人の動きに迷いは無かった。


ドワーフが打つ。


親方が合わせる。


親方が位置を変える。


ドワーフが打つ。


それだけで作業が進んでいく。


少年はいつの間にか見入っていた。


エルフとドワーフの仲が良いのか。


その答えを聞くためにここへ来たはずだった。


だがそんな疑問はもう消えていた。


種族同士のことは分からない。


本当に仲が悪いのかもしれない。


だけど。


目の前の二人がそうだとは思えなかった。


二人が言葉を交わしたのはほんの数回。


きっとそれで十分なのだろう。


少年は静かに槌の音へ耳を傾けた。


ギィン。


キン。


ギィン。


キン。


工房には心地よい金属音が響き続けていた。


終

※本作は note にも掲載しています。

※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。

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