ドワーフとエルフは仲が悪いの?
キン。
キン。
キン。
普段よりも少し高い音が工房に響いていた。
親方は長いトングで薄い金色の金属を掴み、
何度も慎重に叩いている。
だが思うように形は変わらない。
少年はその様子を不思議そうに眺めていた。
「それオリハルコンですよね?」
「そうだよ」
親方は額の汗を拭う。
「この前せっかく見つけたからね」
「ナイフにでもしてみようと思ったんだけど」
そう言ってもう一度金槌を振り下ろした。
キン。
高い音だけが響く。
「思ったより難しいねぇ」
親方は少し困ったように笑った。
「こういうのはドワーフみたいな力持ちの方が扱いやすいのかも」
少年はその言葉を聞いて顔を上げる。
そして思い出したように口を開いた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「ドワーフとエルフは仲が悪いんですか?」
親方は少し考える。
「物語だとそういうことが多いねぇ」
「よく喧嘩してますよね」
「そうだねぇ」
親方は苦笑した。
「実際お互いをあまり良く思ってない人も居るとは思うよ」
「本当なんですね」
「どうだろうねぇ」
親方は肩をすくめる。
「私はドワーフじゃないから」
「ドワーフの気持ちは分からないし」
「エルフの代表でもないからね」
少年は頷いた。
親方はオリハルコンを眺めながら続ける。
「でもね」
「自分に無いものを持ってる相手って」
「ちょっと気になるでしょ?」
少年は少し考える。
「そうかもしれません」
「もしかしたらそんな感じなのかもねぇ」
親方は笑った。
「エルフは力が強い方じゃないから」
「私はドワーフの力強さが羨ましいなって思ったこともある」
再びオリハルコンを叩く。
だがやはり思うように変形しない。
「ほらね」
「こういう時とか」
少年は思わず笑った。
「ズルいなぁって思うんですか?」
「思うねぇ」
親方はあっさり認めた。
「生まれつき力持ちなんだから」
「ズルいなぁって」
少年は少し考え込む。
「それが嫌いになる理由なんですか?」
「どうだろうねぇ」
親方は首を傾げた。
「羨ましいなぁって気持ちが」
「気に入らないなぁって気持ちになることもあるのかもしれない」
「だから仲が悪くなったんですか?」
「さぁ?」
親方は笑う。
「私は歴史学者じゃないからねぇ」
少年もつられて笑った。
しばらくして思い出したように尋ねる。
「親方は鍛冶をドワーフに教わったんですよね?」
「そのドワーフはエルフを嫌ってなかったんですか?」
親方は少し懐かしそうな顔をした。
「嫌われてたというより」
「変なやつだと思われてたかな」
「変なやつですか?」
「エルフが鍛冶を学びたいなら」
「他に行けって何度も言われたよ」
少年は目を丸くする。
「それでも通ったんですか?」
「どうせ学ぶなら優秀な人がよかったからね」
親方は笑った。
「何度も工房に通ったよ」
「勝手に掃除したりしながらね」
少年は思わず身を乗り出した。
「親方が掃除をしたんですか!?」
「必要になればするよ」
親方は平然と答える。
「今は君がこまめに掃除してくれてるから」
「いつも綺麗だけどね」
少年は少し嬉しそうだった。
「最初に来た頃も」
「足の踏み場も無いって程ではなかったでしょ?」
「そうでしたね」
少年は素直に頷いた。
キン。
キン。
キン。
再び高い音が響く。
親方はオリハルコンを見つめながらため息をついた。
「やっぱりオリハルコンは固いねぇ」
「最初だけでも叩いてもらうかな」
「だれかにやってもらうんですか?」
「うん」
親方は頷いた。
「力持ちの鍛冶屋にね」
少年は首を傾げる。
この街の鍛冶屋を少年はほとんど知らない。
そんな少年を見て、
親方は少し楽しそうに笑った。
「せっかく話に出たし」
「ドワーフの鍛冶屋に遊びに行こうか」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




