妖精はどこに住んでるの?
親方は銀色の細い線をゆっくりと折り曲げていた。
元は一本の銀の棒だったものを、
何度も叩いて引き伸ばし、
針のように細くしたものだ。
その銀線を器用に曲げては重ね、
まるでレースのような模様を作っている。
少年はその様子を真剣に見つめていた。
「親方は器用ですね」
「慣れてるだけだよ」
親方はそう言いながら手を動かし続ける。
出来上がりつつある銀細工は、
どこか羽のようにも見えた。
その姿を見ていた少年は、
ふと思い出したように口を開く。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「親方は妖精に会ったことあるんですよね?」
「あるねぇ」
親方は頷いた。
「妖精ってどこに住んでるんですか?」
「さぁ?」
親方はあっさり答えた。
「旅の途中で会ったからね」
「住処までは知らないなぁ」
少年は少し驚く。
「知らないんですか?」
「会ったのはここよりずっと遠い国だったしね」
親方は銀線をくるりと曲げた。
「しかも普通に街の中で買い物してた」
「買い物ですか?」
「そう」
「普通に果物を選んでたよ」
少年はしばらく想像する。
だが手のひらほどの妖精が買い物をしている姿は、
上手く思い浮かばなかった。
「じゃあ人から隠れて暮らしてるわけじゃないんですね」
「少なくともその妖精はそうだったね」
「ただ私はその一人しか会ったことがないから」
「その妖精が変わり者だっただけかもしれないけどね」
少年は頷いた。
「妖精って本当に小さくて空を飛ぶんですか?」
「小さいし飛んでたねぇ」
親方は指先で大きさを示す。
「だいたい人の手のひらに乗るくらいかな」
「そんなに小さいんですか!?」
「背中には羽も生えてたよ」
「やっぱり飛ぶんですね」
「飛んでたけど…」
親方は少し考える。
「でも不思議なんだよ」
「なにがですか?」
「羽はあったけど」
「羽ばたいてたわけじゃないんだ」
少年は首を傾げた。
「じゃあどうやって飛んでたんですか?」
「それが分からないんだよねぇ」
親方は肩をすくめる。
「学者の中には空を飛ぶ魔法だって言う人もいる」
「魔法で空が飛べるんですか?」
「今のところ確認はされてないねぇ」
親方は銀細工を光にかざした。
窓から差し込む光を受け、
細い銀線がきらりと輝く。
「でも妖精やドラゴンみたいに」
「体の大きさと羽の大きさが合ってない生き物はいる」
「だから何か特別な方法で飛んでるんじゃないか」
「そう考える学者もいるんだよ」
「どういう魔法なんですか?」
「さぁ?」
親方は笑う。
「それが分かったら大発見だねぇ」
少年は少し考え込んだ。
「親方が会った妖精はどんな人だったんですか?」
「普通の人だったよ」
「普通?」
「うん」
親方は頷く。
「特別神秘的とも幻想的とも思わなかった」
「小さい人だなぁってくらい」
少年は思わず笑った。
「話してみても普通だったんですか?」
「普通だったねぇ」
「美味しい果物の話とか」
「旅の話とか」
「そんなことを話したかな」
親方は少し懐かしそうに目を細めた。
「最後には友達だって言ってくれたしね」
少年の目が大きく開く。
「妖精とお友達になれるんですか!?」
「なれるんじゃない?」
親方は首を傾げる。
「前に話したドラゴンも友達だって言ってくれたし」
「ドラゴンもですか!?」
「そうだよ」
親方は笑った。
「最初から自分とは違う存在だって決めつけなければ」
「案外普通に話せるものだよ」
「言葉を交わして」
「お互いを知れば」
「姿形が違っても友達にはなれると思う」
少年は少し考える。
すると親方がいたずらっぽく微笑んだ。
「私と君も友達でしょ?」
少年は即座に答える。
「親方は親方ですよ」
親方は思わず吹き出した。
「ふふふ」
完成した銀細工を手に取る。
羽のようにも見えるその細工は、
どこか妖精の羽にも似ていた。
「まぁ呼び方なんてどうでもいいのかもしれないねぇ」
親方はそう言って作業台に置いた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




