聖女とシスターって違うの?
カン。
カン。
カン。
親方は真っ赤に熱した鉄を叩いていた。
一定のリズムで響く音を聞きながら、
少年は窓際の木箱に座って本を読んでいる。
しばらくして顔を上げた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「聖女とシスターって違うんですか?」
親方は鉄を叩く手を止めずに答える。
「シスターが優しいって話し?」
「ちがいます」
少年は即座に否定した。
だが少し考える。
「あ、違いません」
「優しいです」
親方は思わず笑った。
「大丈夫わかるよ」
「ちょっとイジワルだったね」
少年は少しだけ恥ずかしそうに本を閉じた。
「物語だと聖女ってよく出てきますよね」
「出てくるねぇ」
親方は頷く。
「勇者の仲間だったり」
「旅の途中で人を助けたり」
「怪我を治したり」
「そういう話が多いかな」
「最後は勇者と一緒に世界を救うんですよね」
「そういう物語も多いねぇ」
少年は少し考え込む。
「聖女は本当にいたんですか?」
親方は熱した鉄を炉へ戻した。
「過去の文献や聖典にも出てくることはあるよ」
「じゃぁ本当なんですね」
「どうだろうねぇ」
親方は少し笑う。
「聖典自体も地域によって内容が違ったりするし」
「登場する聖女の姿も行動も様々なんだよ」
「そうなんですか?」
「中には神様みたいに描かれてるものもあるらしいし」
「存在自体を否定する学者もいたりするしねぇ」
少年は少し驚いた顔をした。
「じゃあ本当にいたのか分からないんですね」
「そういうことだねぇ」
親方は頷く。
「過去の文献の研究内容や噂はともかく」
「私は聖典の内容には詳しくないからね」
「そのあたりは神父様に聞くといいかもしれない」
「私よりは詳しいと思うよ」
少年は素直に頷いた。
そして読んでいた本の表紙をそっと撫でる。
「聖女ってどんな人だったんですかね」
親方は少し考える。
「物語や伝承の中だと」
「失われた腕を元に戻したとか」
「死の淵から人を救ったとか」
「そんな話があるね」
少年は目を見開く。
「すごい人ですね」
「すごいよねぇ」
親方は笑う。
「でも不思議なんだよ」
「なにがですか?」
「聖女の話って」
「そういう奇跡の話だけじゃなくて」
「人助けの話もすごく多いんだ」
少年は首を傾げる。
「人助けですか?」
「迷った人を導いたとか」
「お腹を空かせた人に食べ物をあげたとか」
「困っている人を助けたとか」
「そんな話」
少年は少し考える。
そしてぽつりと言った。
「ほとんどシスターと同じですね」
親方は思わず吹き出した。
「ふふふ」
「そうかもねぇ」
少し考えてから、
いたずらっぽく微笑む。
「今度シスターにそう言ってみるといいよ」
「きっと喜ぶ」
少年は嬉しそうに頷いた。
後日、
少年に聖女みたいと言われたシスターが。
頬を膨らませて工房に訪れるのはまた別の話。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




