ドラゴンはどうして火を吹くの?
親方は炉の中を覗き込んでいた。
炭の山へ指先を向ける。
小さな火が生まれ、
やがて炭へ燃え移った。
しばらくすると赤い火が静かに広がっていく。
その様子を眺めていた少年が口を開いた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「親方は口から火は出せますか?」
親方はしばらく考える。
「考えたこともなかったなぁ」
「急にどうしたの?」
「ドラゴンがどうして火を吹くのかなって」
「気になってたこと思い出しました」
親方は頷く。
「なるほどねぇ」
「それは何故火を吹くのかってこと?」
「それともどうやって火を吹いてるのかってこと?」
少年は少し考える。
「どっちもです!」
「欲張りだねぇ」
親方は笑った。
「じゃあまずはどうやって火を吹いてるのかからかな」
少年は身を乗り出す。
「はい!」
「実はね」
「ドラゴンの体の中には火を吹くための臓器がある」
「そんな説があるんだよ」
「臓器ですか?」
「そう」
「魔法じゃなくて」
「火を吹く生き物なんじゃないかって考える人もいる」
少年は驚いたような顔をする。
「でも魔法かもしれないんですよね?」
「かもしれないねぇ」
親方は頷いた。
「前にも話したでしょ?」
「生き物はみんな魔石を持ってるって」
「はい」
「魔法は魔石がないと使えない」
「そんな説もある」
「もしそれが正しいなら」
「ドラゴンの火も魔法かもしれないねぇ」
少年は考え込む。
「ドラゴンって賢いんですよね?」
「賢いね」
「人間なんかよりずっと長生きだし」
「魔法の原理を理解してても不思議じゃない」
親方は少し思い出すように続けた。
「学者の中にはね」
「ドラゴンの咆哮そのものが呪文なんじゃないかって研究してる人もいる」
「ドラゴン語ですか?」
「そう」
「本当にそうなら」
「ドラゴンは私たちよりずっと昔から魔法を使ってたことになるねぇ」
少年は目を輝かせた。
「すごいです!」
「じゃあ次はなんで火を吹くのかですね!」
親方は少し笑って炉に手をかざすと、
今度は風魔法で炉の温度を上げ始めた。
「たぶん攻撃じゃないかな」
親方はあっさりと答える。
「料理をするドラゴンの話は聞いたことないし」
少年は少し笑う。
「でも魔法使わなくてもドラゴンは強いですよね?」
「相手は同じドラゴンかもしれない」
「ドラゴン同士で戦うんですか?」
「さぁ?」
親方は肩をすくめる。
「でも人間だって喧嘩するでしょ?」
「長く生きてたら一度も揉めない方が難しそうだけどねぇ」
「それもそうですね」
「あるいは人間の知らないもっと強い生き物がいたのかもしれない」
「本当のところは長生きのドラゴンに聞いてみるしかないね」
そこで少年は何かを思い出した。
「あ」
「親方はドラゴンに会ったことあるって言ってましたよね」
「言ったねぇ」
「その時に聞かなかったんですか?」
親方は少し考える。
「聞かなかったね」
「なんでですか?」
「当時はドラゴンの素材の方に興味があったから」
「素材ですか?」
「鱗はどれくらい硬いのか」
「牙はどれくらい丈夫なのか」
「爪は何に使うのか」
「そんなことばかり聞いてた」
少年は少し考える。
「親方でも知らないことあるんですね」
親方は苦笑した。
「昔はもっと知らないことだらけだったよ」
「私は鍛冶屋として興味があっただけなんだけど」
「向こうは素材を欲しがってると思ったみたいでね」
「急にドラゴンが怖い顔して近づいてきたんだ」
少年は目を丸くする
「喧嘩になったんですか?」
「いや」
「事情を話したら分かってくれたよ」
少年はほっとひと息つく。
「鱗や牙は取るの痛そうですけど」
「でも爪くらいなら大丈夫そうですよね」
「ドラゴンはケチなんですか?」
親方は少年の手を見る。
「君は誰かに爪が欲しいって言われたらどう思う?」
少年は自分の爪を見る。
しばらく考える。
「なんで欲しいのか考えると」
「ちょっと嫌ですね」
「でしょ?」
親方は少し笑う。
「相手の気持ちになると分かることってけっこうあるよね」
少年はほっとした顔をした。
「話ができるドラゴンで良かったですね」
親方は笑う。
「喧嘩はよくないもんねぇ」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




