魔法には杖が必要なの?
カリ。
カリ。
カリ。
親方は農具の柄を削っていた。
削っては差し込み。
差し込んではまた削る。
その横で少年は余った木材を片付けている。
しばらくして少年が口を開いた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「魔法は杖がなくても使えるんですよね?」
「そうだねぇ」
親方は手を止めずに答える。
「じゃあどうして本の中の魔法使いは杖を持ってるんですか?」
親方は少し考えた。
「実はねぇ」
「杖がないと魔法が使えないわけじゃないんだ」
「厳密にはあれは杖というより魔導具なんだよ」
「魔導具?」
「魔法を使うための道具じゃなくて」
「魔法を使いやすくするための道具」
少年は首を傾げる。
親方は続けた。
「昔の魔法使いは呪文を唱えてたでしょ?」
「はい」
「杖も少し似たようなものかもねぇ」
「発動する魔法を決めておいて」
「使いやすくしてるんだよ」
少年は感心したように頷く。
だがすぐに別の疑問が頭に浮かぶ。
「じゃあ魔法が上手な人は杖を使わないんですか?」
「そうとも限らないねぇ」
親方は農具の柄を持ち上げる。
差し込み具合を確かめてから再び削り始めた。
「魔法はちゃんとイメージしないと発動しないからね」
「急に危険な目に遭った時は難しいんだよ」
「でも杖に発動する魔法を固定しておけば」
「とっさに使える」
「だから戦場やダンジョンみたいな場所では重宝されるんだよ」
「なるほど」
少年は少し考える。
「じゃあ杖の形じゃなくてもいいんですか?」
親方は少し笑った。
「良いところに気付いたねぇ」
「本来は剣でも指輪でもなんでもいい」
「ただねぇ」
親方は手元の木材を剣のように構える。
「剣は訓練しないと使えないでしょ?」
「持っていても使えないなら意味がないからね」
「あと剣ってそれなりに高価だし」
「指輪はどうですか?」
「別にいいと思うよ」
「でも小さいから無くしそうだねぇ」
少年は自分の指を見る。
確かに無くしそうな気がした。
親方は削りかけの柄を軽く振った。
「その点、杖は便利なんだ」
「歩く時に使えるし」
「悪路なら支えにもなる」
「穴や草むらをつつくこともできる」
「最悪殴れるしねぇ」
少年は少しだけ笑った。
「杖って便利なんですね」
「便利だよ」
親方はあっさり頷く。
しばらくして少年が尋ねた。
「親方は杖を持ってなかったんですか?」
「持ったことないねぇ」
「でも旅の途中で危険なことはあったんですよね?」
「望んで危険に飛び込んだつもりは無いからね」
親方は少しだけ苦笑した。
「今思うと持っておけば良かったなと思うことはあるよ」
「でも持たなかったんですか?」
親方は削り屑を払った。
「かさばるからねぇ」
少年は黙り込む。
危険な旅。
魔法の杖。
そして親方。
頭の中で想像してみる。
でもやっぱりよく分からなかった。
しばらく考え込んでから口を開く。
「じゃあ杖があれば魔法を勉強しなくて良くないですか?」
親方は少し考えた。
そして逆に質問する。
「もし旅の途中で杖が壊れたらどうするの?」
「あ」
少年は言葉に詰まる。
「困りますね」
「でしょ?」
親方は頷いた。
「じゃあ杖無しで魔法が使えたほうがいいよね」
「そうですね」
「近道には危険がいっぱいって事かもね」
親方は完成した柄を農具に差し込む。
今度はぴったり収まった。
「遠回りに見えても」
「地道に覚えたことが」
「結果的に自分を助けることも多いんだよ」
少年は少し残念そうにつぶやく。
「勉強はしないとダメそうですね」
親方は笑った。
「好きなことならきっと頑張れるよ」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




