ミスリルやアダマンタイトは存在するの?
ゴウ。
ゴウ。
工房の炉が唸るような音を立てている。
親方は炉に向かって手をかざしていた。
風が炭の中へ送り込まれ、赤かった炭がさらに明るく輝いていく。
少年はその様子をじっと見つめていた。
しばらくして親方が頷く。
「そろそろかなぁ」
そして振り返った。
「ちょっと倉庫から鉄を取ってきてくれる?」
「はい!」
少年は倉庫へ向かう。
しばらくして、両手で抱えるように鉄の塊を持って戻ってきた。
歪な棒のような形をした鉄だ。
親方は長いトングでそれを掴む。
そして炉の炭の中へ突き刺した。
その様子を見ながら少年が口を開く。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「ミスリルやアダマンタイトって本当にあるんですか?」
「あぁ」
親方は頷いた。
「あるよ?」
「珍しいし高価だから」
「ここで扱ったことはないけどね」
「どんな金属なんですか?」
親方は炉を見つめたまま答える。
「ミスリルは魔法と相性が良い金属」
「アダマンタイトは丈夫な金属」
少年は首を傾げた。
「それだけですか?」
「それだけで十分すごいよ?」
親方は笑う。
「他にも変わった金属はあるんですか?」
「あるよ」
「オリハルコンとかねぇ」
「それも鉱山で取れるんですか?」
「いや」
親方は首を横に振った。
「オリハルコンは錬金術で作られた金属だよ」
「鍛冶屋的には合金に近いかな」
「作れると言っても大変らしいからねぇ」
「高価で珍しいことには変わりないけど」
少年の目が少し輝く。
「見たことありますか?」
「あるよ」
そう答えると親方は炉の傍を離れる。
「そう言えば…」
天井近くの戸棚を漁り始めた。
「どこやったかなぁ」
ガサゴソ。
ガサゴソ。
しばらく探してから小さく声を上げた。
「あった」
取り出したのは薄い金色の短い棒だった。
少年は思わず見入る。
「鉄の素材と違って綺麗ですね」
親方はその棒を少年に手渡した。
「錬金術で溶かして固めてあるからね」
少年は手の中のオリハルコンを眺める。
光の当たり方で少しだけ色が変わって見えた。
「鉄もこういう綺麗な棒にしないんですか?」
「炭だけじゃ鉄は溶かせないからねぇ」
親方は炉を指差した。
「だから鍛冶屋は塊を叩いて形を整える」
「鉄が最初から綺麗な棒になってることはあまり無いんだよ」
「なるほど」
少年は頷く。
そしてふと気付いた。
「高いんですよね?」
「高いよ」
「高いのにそんなところに入れてたんですか?」
親方は少し考えた。
「後で仕舞うつもりだったんだよ」
「いつですか?」
「さぁ?」
少年は呆れたようにため息を吐いた。
オリハルコンを眺めながら思い出す。
「そう言えば本にヒヒイロカネってありました」
「聞いたことはあるねぇ」
親方は頷く。
「でも私は見たことないかな」
「本当にあるのかもしれないし」
「物語のために作られた金属かもしれない」
少年はオリハルコンを返した。
そして新しい疑問を口にする。
「じゃあ一番良い剣が作れるのはどの金属なんですか?」
親方は少し考える。
「どんな剣が良い剣かによるかな」
「丈夫な剣なのか」
「魔法を付与した剣なのか」
「雑に扱っても平気な剣なのか」
「目的次第だねぇ」
そう言って親方は笑った。
「君はどんな剣が欲しいの?」
少年は少し考える。
だが答えはすぐに決まった。
「剣はいらないですね」
「おや」
「僕は魔法が使いたいので」
親方は笑う。
「本当に魔法が好きだねぇ」
少年は炉を見た。
赤く燃える炭。
そこへ送り込まれる風。
そして思い出したように言う。
「さっきのは風の魔法ですよね!」
「そうだよ?」
「やっぱり魔法ってかっこいいです」
親方は少し困ったように笑う。
「私はただ風を送ってただけなんだけどねぇ」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




