エルフはどうして美人なの?
カン。
カン。
カン。
工房に金属を打つ音が響く。
掃除を終えた少年は、いつものように親方の仕事を眺めていた。
そしてふと首を傾げる。
「あれ?」
親方が顔を上げた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「今日は服が違いますね」
「あぁ」
親方は自分の服を見下ろした。
「今までのがボロボロになりすぎてねぇ」
「流石に一着買った」
少年は改めて親方を見る。
いつもの作業着と形は似ている。
でも新品だからだろうか。
なんだかいつもより綺麗に見えた。
「親方って綺麗ですよね」
親方の手が止まる。
「急にどうしたの」
「だって」
「いつもよりエルフっぽいです」
親方は少しだけ困ったように笑った。
「それ褒めてるのかな」
「褒めてます」
少年は真面目な顔で頷く。
しばらく考えてから口を開いた。
「エルフってどうしてみんな綺麗なんですか?」
親方は槌を置いた。
「うーん」
「自分を綺麗って言うみたいでちょっと気恥ずかしいけど」
「そうだねぇ」
少し考える。
「昔のエルフはね」
「美しいものに強い拘りを持ってたんじゃないかと思うんだ」
「美しいものですか?」
「そう」
「例えば美しい人とかね」
少年は首を傾げる。
親方は続けた。
「美しい人しか結婚しない」
「美しい人しか仲間に入れない」
「そんな集団だったのかもしれない」
「そんなことあるんですか?」
「さぁ?」
親方は肩を竦める。
「私は見たことないけどねぇ」
「でも何が綺麗かなんて人によって違いませんか?」
親方は頷いた。
「そうなんだよねぇ」
「だからこの話はただの私の想像」
「みんな同じものを綺麗だと思うなら楽なんだけど」
「実際は違うでしょ?」
「私は自分のことも」
「そんなに綺麗だとは思ってないしねぇ」
少年は親方の横顔を見つめる。
普段は煤まみれで汚れているけれど。
親方は綺麗だと思う。
だが他の人から見てもそうなのか。
少年にはよく分からなかった。
親方は話を続ける。
「ただね」
「もし本当にそんな集団だったなら」
「子供はあまり増えなかったと思うんだ」
「どうしてですか?」
「結婚できる相手が少ないから」
「あぁ」
少年はなんとなく納得した。
「だから長生きになったのかもしれないねぇ」
「一人一人が長く生きる必要があったのかも」
「じゃあエルフって何歳くらいまで生きられるんですか?」
親方は少し考える。
「どうだろうねぇ」
「途中で病気や怪我で亡くなる人も多いし」
「私も死んだことはないからわからないなぁ」
少年は思わず笑った。
「それもそうですね」
「じゃあ寿命で亡くなる方は何歳くらいなんですか?」
「エルフの里にいたら見聞きできたと思うけど」
「里で暮らしてない私には確認のしようがないなぁ」
そう言って親方は再び槌を手に取った。
少年はしばらく考えていたが、また口を開く。
「じゃあどうして森に住むんですか?」
「それも似たような理由かもねぇ」
親方は金属を炉に戻す。
「好きなものだけに囲まれて暮らしたかったのかもしれない」
「好きなものだけ?」
「そう」
「本人たちは幸せだったのかも」
「好きなものだけに囲まれて暮らせるわけだから」
少年は少し想像してみる。
好きなお菓子。
好きな本。
好きな人。
それだけに囲まれて暮らせたら確かに楽しそうだ。
親方は続けた。
「エルフは自然が好きなんじゃなくて」
「自然が綺麗だから好きなのかもしれない」
「森なら人の作ったものも少ないしねぇ」
そこまで考えて親方はふと顔を上げる。
「もしかしたら綺麗な人が好きなのも同じ理由かも」
「お化粧や着飾った綺麗さじゃなくて」
「生まれ持った自然な綺麗さを好んだのかもしれない」
「なるほど」
少年は納得したように頷いた。
だがすぐに新しい疑問が浮かぶ。
「親方は森に住みたくなかったんですか?」
親方は少し笑った。
「森も綺麗だけどねぇ」
「街も綺麗だし」
「教会も綺麗だし」
「人が作るものも綺麗だからねぇ」
「私はそっちも好きだったんだよ」
少年は納得したように頷く。
そして言った。
「じゃあ親方はエルフの中では変わり者なんですね」
親方は少し考える。
「そうだろうねぇ」
そしてすぐに続けた。
「でも人間の中でも変わり者らしいよ?」
少年は即答した。
「それはそうだと思います」
親方は眉をひそめる。
「ひどいなぁ」
工房には少年の笑い声が響いていた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




