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エルフの鍛冶屋―ねぇ親方― (世界の不思議を語り合う、1話完結の雑談ファンタジー)  作者: ぱられ


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【特別編】初めての薬屋

商店街の一角。


市場と工房街の間あたりに、小さな店が建っている。


看板には薬瓶と猫耳と尻尾の描かれた絵。


文字は書かれていない。


親方は木箱を抱えながら店の前で立ち止まった。


「ここだねぇ」


少年は店を見上げる。


「ここが薬師のお姉さんのお店ですか」


親方は頷いた。


「そう」


「入ろうか」


ドアを開ける。


チリン。


ベルが小さく鳴った。


店の中はあまり広くない。


待合用らしいベンチ。


棚には薬瓶。


粉末の入った瓶。


色のついた液体。


使い方の分からない道具。


少年は思わず辺りを見回した。


「誰もいませんね」


「少し待とうかねぇ」


その時だった。


奥から変な匂いが漂ってくる。


そして。


バタバタバタ!


ゴホッ!


ゴホッ!


通路の奥から薬師が飛び出してきた。


「今回は上手くいくはずだったのに!」


親方は呆れたように笑う。


「懲りないねぇ」


薬師はそこでようやく来客に気付いた。


「あれ?」


「鍛冶屋?」


「直接裏から来れば良かったのに」


親方は肩をすくめる。


「この子が店を見たいって言うもんだからねぇ」


薬師は少年を見る。


「あー」


「シスターちゃんが言ってた子か」


少年はぺこりと頭を下げた。


「いつも教会で会うので」


「お店に来るのは初めてです」


薬師は笑う。


「そうだったのか」


「じゃあ今日は特別だな」


「良かったら工房も見ていくかい?」


少年の目が輝いた。


「はい!」


薬師は通路の奥を指差す。


「ただし」


「勝手に触ったらダメだぞ?」


「危ない物もあるからな」


「はい」


奥の工房へ入る。


そこには様々な道具が並んでいた。


大きな机。


ガラス器具。


薬草。


魔石。


謎の液体。


壁には乾燥した植物。


動物の骨。


牙や爪。


窓は大きく開けられている。


それでも少しだけ変な匂いが残っていた。


どう見ても、さっきまで何か実験していた部屋だ。


薬師は振り返る。


「散らかってるから気を付けろよ」


親方は部屋を見回した。


「片付いてる方だと思うけどねぇ」


少年も部屋を見回す。


「片付いてますかね?」


薬師は胸を張った。


「昨日片付けた!」


親方は少し笑う。


「昨日ねぇ」


少年は何とも言えない顔をした。


しばらく見回していた少年が口を開く。


「薬師のお姉さんは」


「錬金術師だったんですね」


薬師は首を横に振った。


「違う違う」


「アタシは薬師だぞ」


「錬金術師じゃない」


親方が簡単に事情を説明する。


「錬金術師ってのは研究者みたいなもんだからねぇ」


少年は少し考えた。


「でも」


「何か研究してたんですよね?」


薬師は笑う。


「これは趣味!」


親方は肩をすくめる。


「やってることは変わらないんだけどねぇ」


「違うの!」


薬師は即座に否定した。


「アタシは薬を作る人!」


「錬金術師ってのはもっと頭の固そうな連中!」


少年はますます分からなくなった。


薬師は机の上を指差す。


「例えば今やってたのは」


「万能な解毒薬の実験だな」


そこから薬師は勢いよく話し始めた。


毒を持つ生き物。


その魔石。


解毒薬。


薬草。


調合。


失敗。


改良。


また失敗。


次の実験。


「毒持ちの生き物ってさ、自分の毒では死なないだろ?」


「だったら魔石にも何かあると思うんだ」


「だから色んな毒草と混ぜて試してる」


「だから毒蛇と毒蜘蛛と毒蛙を――」


薬師は自分の理論を夢中で語る。


少年は途中から話についていけなくなった。


「やっぱり錬金術師ですよね?」


親方は苦笑する。


「これでしっかり資料を残せれば立派な錬金術師なんだけどねぇ」


話が一段落ついた所で親方が話しかける。


「この前も似たようなことしてなかった?」


親方は慣れた様子であたりを見渡す


「前のはトカゲ!」


「今回は蛙!」


「ぜんぜん違うじゃん!」


親方は手に持っていた木箱を机の上に乗せる。


「それでこんなに色々作らせたの?」


中には様々な素材で作られた混ぜ棒が並ぶ。


「そう!」


薬師は目を輝かせた。


「待ってました!」


薬師は一本一本手に取る。


「これでまた結果が変わるかもしれないんだよ」


少年は不思議そうに見る。


「そんなに違うんですか?」


薬師は即答した。


「分かんない!」


少年は固まる。


「え?」


薬師は満面の笑みを浮かべた。


「試せば分かる!」


親方は一歩下がる。


「試すのは私たちが帰ってからにしてね」


「えー」


「えーじゃない」


薬師は不満そうに頬を膨らませた。


少年は工房を見回した。


薬草。


魔石。


骨。


瓶。


見たこともない道具。


少し変な匂い。


でもどこか楽しそうな空間。


少年はぽつりと言った。


「でも」


「この部屋ちょっとかっこいいですね」


薬師は一瞬きょとんとした。


それから嬉しそうに笑う。


「そうかい?」


「嬉しいこと言ってくれるじゃん」


親方は工房を見回した。


「失敗さえなければねぇ」


薬師は即座に反論する。


「成功してないだけなの!」


工房には笑い声が響いていた。


終

※本作は note にも掲載しています。

※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。

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