錬金術師と薬師は何が違うの?
カチャ。
カチャ。
親方は作業台に並んだ小さな金属の棒を手に取っていた。
鉄。
銅。
真鍮。
銀。
色々な金属で作られている。
少年は不思議そうに眺める。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「何作ってるんですか?」
親方は一本持ち上げた。
「混ぜ棒」
「混ぜ棒?」
「そう」
「錬金術で使うやつ」
少年は並んだ棒を見比べる。
「なんで色んな種類があるんですか?」
親方は肩をすくめた。
「混ぜ棒の素材で出来上がりに違いが出ることもあるらしいよ」
「らしい?」
「詳しいことはわからないけどねぇ」
少年は少し驚いた。
「親方でも知らないことあるんですね」
「いっぱいあるよ」
親方はあっさり答える。
「知らないことの方が多いくらいだねぇ」
少年は棚の方を見る。
そこにはポーションの瓶が置かれていた。
「そういえば」
「錬金術師と薬師は何が違うんですか?」
親方は少し考える。
「この間の話の続き?」
「ポーションと薬は違うのかっていう」
少年は小さく頷く。
「材料が違うのはわかりました」
「でも傷を治すって意味では同じですよね?」
親方は頷いた。
「そうだねぇ」
「実際」
「ポーションを売るには薬師としての資格が必要だからね」
少年は目を丸くした。
「錬金術師なのにですか?」
「結局は薬だからねぇ」
親方は混ぜ棒を並べながら続ける。
「正確には薬師の勉強の中に」
「ポーションの知識も含まれてるみたいだよ」
「ポーションを作れるだけじゃダメなんですか?」
「ただ作れることと」
「それを買う人がいるかは別の話だからねぇ」
少年は首を傾げる。
親方は少し考える。
「例えば色んな薬を扱うお店があったとして」
「解熱薬しか作れない人のお店と」
「全ての薬を勉強した人のお店」
「君ならどっちで薬を買う?」
「全ての薬を勉強したお店ですね」
「そうだねぇ」
「だから資格がある」
少年は納得したように頷く。
「じゃあ薬師は薬の勉強をした人なんですね」
「そういうこと」
親方も頷いた。
「でも」
少年はまた首を傾げる。
「錬金術師は違うんですか?」
親方は少し考える。
「私の知る錬金術師は」
「どっちかというと研究者だねぇ」
「研究者?」
「新しい薬を作ったり」
「失敗したり」
「ぜんぜん別のものが作れちゃったり」
「そういう人達」
少年は感心したように聞いている。
「じゃあ薬師さんとは違うんですね」
「違うことが多いかな」
親方は少し笑う。
「でも両方やってる人もいる」
「ややこしいです」
「そうだねぇ」
しばらく沈黙が流れる。
やがて親方が口を開いた。
「君も会ったことあるよ」
「え?」
「教会に薬を届けてるお姉さん」
少年はすぐに思い出した。
「あぁ」
「あの人ですか」
親方は頷く。
「あの子は薬師だけど」
「錬金術も使えるよ」
「お店にはポーションも置いてある」
少年は少し驚く。
「じゃあ薬師のお姉さんは」
「錬金術師さんなんですか?」
親方は少し考える。
「本人に聞いてみたら?」
少年は少し笑った。
「聞いてみたいです」
親方は作業台の混ぜ棒を指差した。
「ちょうど良かった」
「今度これを届けに行くんだ」
少年は目を輝かせる。
「お店にですか?」
「そう」
「一緒に行く?」
少年は即答した。
「行きます!」
親方は少し笑う。
「決まりだねぇ」
工房には穏やかな時間が流れていた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




