スライムは魔物なの?
カン。
カン。
カン。
工房に鉄を打つ音が響く。
親方は炉の前で赤くなった鉄を叩いていた。
少年は掃除を終えたばかりらしい。
工房の裏へゴミを捨てに行って戻ってくる。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
少年は少し考える。
「スライムって魔物なんですよね?」
親方は鉄を叩きながら答える。
「そう呼ぶ人は多いねぇ」
「でも」
少年は首を傾げた。
「教会のトイレにもいます」
「いるねぇ」
「裏のゴミ捨て場にもいます」
「いるねぇ」
カン。
カン。
カン。
少年は少し考える。
「魔物なのに?」
親方は鉄を炉へ戻した。
「魔物って何だと思う?」
少年はすぐに答える。
「危ない生き物です」
親方は頷いた。
「じゃあスライムも危ないのかな?」
少年は少し迷う。
「わかりません」
「スライムは危ないんですか?」
「危ない種類もいるよ」
親方は答える。
「大人しい種類もいる」
「犬と狼くらい違うのかもねぇ」
「同じスライムなのにですか?」
「そうみたいだねぇ」
少年は少し驚いた。
しばらく考える。
「そもそもスライムって生きてるんですか?」
親方は少し考える。
「ゆっくりだけど動くし」
「生きてるんだろうねぇ」
「前に話したでしょ?」
「生き物には魔石があるって」
少年は頷く。
「あぁ」
魔石の話は覚えている。
「じゃあ」
少年はまた首を傾げた。
「何で魔物は魔物なんですか?」
親方は少し考える。
カン。
カン。
カン。
「人がそう呼んでるからじゃない?」
「呼んでるだけですか?」
「畑を荒らしたら魔物」
「人を襲ったら魔物」
「そう考える人もいる」
少年は静かに聞いている。
「でも地域によって違うねぇ」
「違うんですか?」
親方は頷く。
「この辺りではイノシシやシカを動物って言うけど」
「農業が盛んな地域だと魔物扱いされてる地域もある」
「同じイノシシでも小さい種類は動物で」
「大きい種類を魔物と細かく分ける地域もある」
少年は少し考える。
「魔物って難しいですね」
「そうだねぇ」
カン。
カン。
カン。
しばらく鉄を打つ音だけが響く。
やがて少年が口を開いた。
「スライムとお話してみたいです」
親方は少し笑う。
「何を聞いてみる?」
「好きな食べ物です」
「好きな食べ物?」
「はい」
少年は頷く。
「いつもゴミばかりじゃ可哀想ですし」
親方は少し考える。
「ゴミが好きなスライムだといいねぇ」
少年も少し笑った。
カン。
カン。
カン。
工房には今日も穏やかな時間が流れていた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




