ドワーフってなんで鍛冶が得意なの?
シャッ。
シャッ。
シャッ。
工房に刃物を研ぐ音が響く。
少年は床に並んだ鉄材を布で磨いていた。
しばらく無言で作業していたが、ふと顔を上げる。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
親方は刃物を研ぎながら答えた。
「ドワーフってなんで鍛冶が得意なんですか?」
親方は少し考える。
「んー……」
「なんでだろうねぇ」
「親方でも知らないんですか?」
「知らないなぁ」
親方はそう言ったあと、少しだけ首を傾げた。
「でも」
「はい」
「旅先で聞いた話ならある」
少年は少し身を乗り出した。
親方は研いでいた刃物を作業台に置く。
「昔ね」
「鉱山の街で年寄りのドワーフに聞いたんだけど」
「なんてですか?」
「その土地のドワーフは代々鉱山奴隷だったらしい」
少年は目を瞬かせた。
「奴隷?」
親方は少し首を傾げる。
「この辺りじゃもう見ないからねぇ」
「ピンとこないかな」
少年は正直に頷いた。
「自由に仕事を選べない人達かな」
「へぇ……」
親方は窓の外を見る。
「背が低くて力持ちだったからねぇ」
「狭い坑道でも動きやすかったらしい」
「それだけの理由だったって」
少年は少し考えた。
「なんだか嫌ですね」
「そうだねぇ」
親方は頷く。
「でも」
「うん?」
「その後、奴隷達はなんやかんやあって解放されたらしいよ」
「何があったんですか?」
「覚えてないねぇ」
「覚えてないんですか」
「お酒の席で聞いた話だったし」
少年は少し呆れた顔になる。
「またですか」
「ドワーフだったからねぇ」
親方は肩をすくめた。
「関係あります?」
「大あり」
親方は少し笑う。
「五人くらいで飲んでたんだけどねぇ」
「うん」
「話す度に内容が変わるんだ」
「なんでですか」
「みんな酔ってたから」
少年は吹き出した。
親方も少し笑う。
しばらくして少年が言った。
「でも」
「うん?」
「鉱山を掘るのと鍛冶って違いませんか?」
親方の手が止まる。
「……あー」
「違うねぇ」
「ですよね」
親方は腕を組んだ。
「だからね」
「これは私の想像なんだけど」
少年は頷く。
「解放されたドワーフ達は困ったと思うんだ」
「どうしてですか?」
「鉱山を掘ることしか知らなかったから」
少年は少し考える。
「確かに」
「急に明日から自由ですって言われても困ります」
「だよねぇ」
親方は作業台の鉄塊を軽く叩いた。
コン。
「でも鉄はある」
「鉄」
「うん」
「山ほど」
「だったら使うしかない」
「鍛冶ですか?」
「鍛冶かもしれない」
少年は工房を見回した。
ハンマー。
ヤスリ。
鉄板。
鍛冶道具が並んでいる。
「なるほど」
「鉄を掘る人が」
「鉄を作る人になった」
「かもしれないねぇ」
親方は頷く。
「その街は今じゃ有名な鍛冶の街になってる」
「へぇ」
「腕の良い職人も多いよ」
「行ったことあるんですか?」
「昔ねぇ」
少年は少し笑う。
「親方って色んなところ行ってますよね」
「まぁ」
「長生きだからねぇ」
親方は笑った。
「気付いたら色んなとこ行ってた」
しばらく沈黙。
「じゃあ」
少年が口を開く。
「ドワーフが鍛冶に向いてたんじゃなくて」
親方は少年を見る。
「鍛冶が必要なドワーフが多かったのかもしれませんね」
親方は少し目を丸くした。
それから笑う。
「初めは嫌なことでも」
「続けると得意になることもある」
「得意になってから好きになることだってあるからねぇ」
工房に静かな風が吹き込む。
「親方は鍛冶が好きですか?」
「好きだよ」
「初めは思うように行かなくて嫌だったけどねぇ」
そう語る親方の目はなんだか嬉しそうだった。
しばらくして少年が再び口を開く。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「ドワーフはなんでみんなヒゲが長いんですか?」
親方は少し考えた。
「んー……」
それから小さく笑った。
「聞いてみたら良かったねぇ」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




