エルフってなんで弓が得意なの?
カン。
カン。
カン。
工房に金槌の音が響く。
窓際の木箱に座った少年は、本棚から持ってきた本を読んでいた。
しばらくページをめくっていたが、ふと顔を上げる。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
親方は鉄を叩きながら答えた。
少年は本の挿絵を親方に見せた。
そこには弓を構えるエルフが描かれていた。
「エルフってなんで弓が得意なんですか?」
親方は少し考えた。
「んー……」
カン。
カン。
カン。
「なんでだろうねぇ」
「親方でも知らないんですか?」
「知らないなぁ」
「エルフなのにですか?」
「エルフなのにねぇ」
親方はそう言って少し笑った。
少年は首を傾げる。
「本を見るとみんな弓を持ってます」
「持ってるねぇ」
「槍じゃなくて」
「うん」
「斧でもなくて」
「うん」
「弓です」
「そうだねぇ」
親方は鉄を炉の横へ置いた。
「長生きだからなのかなぁ」
「長生き?」
「練習する時間いっぱいあるし」
「なるほど」
少年は頷く。
だがすぐにまた首を傾げた。
「でも」
「うん?」
「長生きなら剣も強くなりませんか?」
親方は止まった。
「……あー」
しばらく考える。
「それはあるねぇ」
「ですよね」
「長生き説、怪しくなってきたなぁ」
親方は苦笑した。
少し沈黙が流れる。
工房の外から鳥の声が聞こえた。
「森だからなのかなぁ」
親方がぽつりと言う。
「森?」
「エルフって森のイメージあるでしょ?」
「あります」
「森だと弓の方が便利そうだし」
少年は少し考えた。
「でも弓も力いりません?」
親方は腕を組む。
「んー……」
「剣で切るよりは力いらないんじゃない?」
「そうなんですか?」
「知らないなぁ」
「知らないんですか」
「知らないねぇ」
少年は少し考えた。
それから親方の方を見る。
カン。
カン。
カン。
「でも」
「うん?」
「親方、今重たいハンマーで鉄叩いてるじゃないですか」
親方は手を止めた。
ハンマーを見る。
少年を見る。
もう一度ハンマーを見る。
「叩いてるねぇ」
「エルフなのに」
「エルフなのにねぇ」
親方は少し笑った。
「昔からよく言われる」
少年も少し笑う。
「じゃあエルフが力弱いっていうのも怪しくないですか?」
「怪しくなってきたねぇ」
二人はしばらく考えた。
長生き説。
森説。
力弱い説。
どれもそれっぽい。
どれも決め手がない。
「結局なんでなんでしょうね」
少年が言う。
親方は窓の外を眺めた。
「長い時間かけて練習すれば」
「なんでも上手になれるってことかなぁ」
「エルフは長生きだから時間だけはたくさんあるし」
少年は少し肩をすくめる。
「なんだかちょっとズルいですね」
「そうだね」
二人は揃って少しだけ笑う。
しばらくして少年は本を閉じる。
そしてまた顔を上げた。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「エルフってなんで長生きなんですか?」
親方は少し考えた。
「んー……」
それから小さく笑う。
「それはまた長い話になるねぇ」
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




