神様と女神様は違うの?
ザッ。
ザッ。
ザッ。
工房に箒の音が響く。
少年は床を掃いていた。
今日は掃除の日らしい。
親方は高い棚の上に並んだ木彫りの人形を一つずつ手に取っている。
眺めては戻し。
また別の人形を手に取る。
「親方」
「親方じゃないけどなに?」
親方は人形を眺めたまま答えた。
「掃除してるんですよね?」
「してるよ?」
「人形見てるだけに見えます」
「埃が付いてないか確認してる」
少年は棚を見上げた。
「今三つ連続で見てました」
親方は少し考える。
「ちゃんと確認した」
少年は何も言わなかった。
しばらくして。
少年は箒を動かしながら口を開く。
「ねぇ親方」
「親方じゃないけどなに?」
「神様と女神様って違うんですか?」
親方は木彫りの人形を棚へ戻した。
「どうしたの急に?」
「教会の女神像です」
「女神像?」
「お掃除の時にいつも見てるんです」
親方は頷く。
教会の入り口近くにある大きな像のことだろう。
「でも物語には男の神様も出てきます」
「なるほどねぇ」
親方は少し考えた。
「男の神様を神様」
「女の神様を女神様って呼んでるだけかもねぇ」
少年は頷きかけた。
だがすぐに首を傾げる。
「でも本には」
「母なる神って書いてあるのもありました」
親方も首を傾げた。
「困ったねぇ」
少年は少し笑う。
「神様って一人じゃないんですか?」
親方は棚の上を見ながら考えた。
「一人だって言う人もいるし」
「たくさんいるって言う人もいるねぇ」
「どっちなんですか?」
「どうだろうねぇ」
親方は肩をすくめる。
「海を守る神様」
「畑を守る神様」
「旅人を守る神様」
「火を守る神様」
「そうやって役割ごとに呼び分けてるだけかもしれないし」
少年は頷く。
たしかに物語には色々な神様が出てくる。
「逆に」
親方は続けた。
「全部同じ神様かもしれない」
「同じなんですか?」
「四角いパンも」
「丸いパンも」
「全部パンでしょ?」
「あぁ」
少年は納得した。
「細かく分ける人もいるけど」
「気にしない人もいる」
「神様もそんな感じなのかもしれないねぇ」
少年は少し考える。
それから不安そうな顔になった。
「じゃあ」
「何を信じればいいんですか?」
工房が少し静かになった。
親方はすぐには答えない。
棚の上を見ながら考える。
やがて口を開いた。
「教会の神父様はどう言ってる?」
少年は考える。
「祈りは届きます」
「うん」
「そう言ってます」
「誰に祈れって?」
少年が止まる。
「お祈りをしましょうってよく言いますけど」
「うん」
「誰にとは言ったこと無い気がします」
親方は頷いた。
「そっか」
少し考える。
「じゃあ案外」
「大切なのは祈る相手じゃないのかもねぇ」
「相手じゃない?」
「みんなが幸せになりたいとか」
「誰かに元気になってほしいとか」
「今日も無事でありますようにとか」
「そういう同じ願いを持って」
「同じ方向を向くことに意味があるのかもしれない」
少年は少し考える。
それから小さく笑った。
「それなら僕にもできそうです」
親方も少し笑う。
「それはよかった」
ザッ。
ザッ。
ザッ。
少年はまた掃除を始める。
親方も棚の上へ手を伸ばした。
工房には穏やかな時間が流れていた。
終
※本作は note にも掲載しています。
※挿絵付き版のほか、作者ブログや『親方の秘密の考察ノート』などの関連コンテンツも公開しています。




