表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭魔の鬼 ~俺の意識を乗っ取る絶壁美少女は、世界最強の呪物で無双する~  作者: MASAO
第8話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/41

瞬光碧影 3.


『――という訳でわしはここに居るのです……』


 付喪神は相変わらずマイペースで気持ちよさそうに話している。


……長い。


 いや、長すぎるだろ……。


 さっきから三十分は喋ってるぞ、このレンズ……。


 猫又は耐え切れず、だらりとリラックスした溶け方で地面の上で寝ている。


『だからこそ、わしのボディを……』


「つまり、簡単に要約すると……離れ離れになってしまった、あなたのカメラボディを探してほしいという話でいいですか?」


 僕は瑠璃ちゃんに向き合う恰好で痺れを切らして言った。


『ピンポーン! その通りです……いやぁ、話が早くてわし嬉しいなぁ』


「へ? カメラボディは持ってますよ? ほら……」


 瑠璃ちゃんは僕にシルバーの機械式カメラを見せた。


「あ、いや……その、そうじゃなくて……」


 言い淀んでいるとスッと僕の背後に悪寒が走った。


下僕げぼく。わたくしのプリンが決まりましてよ)


…………。


『!? ……話は終わったのか?』


 ビクッと猫又がマヤさんの鬼気に反応して、飛び起きた。


 ああ……話がややこしくならないうちに――。


「瑠璃ちゃん……よく聞いてくれるかい。こんなこと言っても信じてくれないかもしれないけど……そのカメラのレンズには、付喪神が宿っているんだよ……」


 僕は意を決して付喪神の事を伝えた。


「――はあ……このレンズの元々のボディを探したいと……このレンズの妖怪が言っている……と」


 瑠璃ちゃんは僕の顔を覗き込むように半信半疑で……いや、完全に疑いの眼差しを向けている。


「先輩……私、前も言ったと思うんですけど、そういう摩訶不思議な都市伝説とか怪談とか妖怪って信じてないんですよね。ていうか、興味ないんです」


 瑠璃ちゃんはピシャリと言った。


 ああ、やっぱりダメか……


(ふふふ、目に見えないものをそう易々と信用などしないものですわよ……特に人間は。さあ、プリンを買いに行きますわよ)


 マヤさんはプリンの事で頭が一杯のようだ……


『小僧よ。それだけではないぞ……その機械を使うたびに、娘は生気を吸われておるぞい……すなわち、使い続ければ、その娘はいずれは屍となろうよ……機械の彼奴あやつはそれに気が付いておらなんだ様子……全くのポンコツぶりよ』


「えええっ!」


『へ? なんじゃとーっ!』


 僕と付喪神は声を揃えて叫んだ。


 当の瑠璃は首を傾げて僕を見ていた。


「る、瑠璃ちゃん! まずいよ……そのレンズを使い続けていたら……とても危険な事になるよ」


 僕は必死の形相で瑠璃ちゃんに訴えた。


「え……ちょっと、何言ってるか分からないです」


 困惑した様子で瑠璃が一歩下がった。


「だ、だから……瑠璃ちゃんの……その、取り返しがつかなくなるかもしれないんだよ!」


 僕は思わず声を荒げてしまった。


「――さすがにそれは……先輩がそんな変な脅しを言うなんて、思いもしませんでした……私、帰ります」


 瑠璃ちゃんはすっく、と立ちあがると下の公園に続く階段へ向かう。


「待って瑠璃ちゃん!」


 瑠璃ちゃんはその声に反応して立ち止まると、素早く振り返った。


――カシャッン!


 振り返った瑠璃はファインダーを覗かずレンズを向けて、お社をバックに僕と猫又をパンフォーカスで撮ったのだ。


「私、カメラで色々なものを撮るのが好きなんです。それに、このパンケーキレンズだって中古カメラ屋さんを回っていて、ビビッと来たから手に入れた……大切な、お気に入りのレンズなんです」


「瑠璃ちゃん……でも、そのレンズで撮るのは……」


「私は大丈夫です……心配してくれてありがとうございます……全部は信じられないけど、先輩のように猫ちゃんとお話しできる人もいるんだなって、今日初めて知りましたし……今日は楽しかったです」


 瑠璃ちゃんはニッコリと笑って、境内の階段をゆっくりと降りて行った。


『小僧、どうにかせい……』


 猫又が足元で言った。


(さあ、下らない用事もすみましたし、わたくしの選んだ最高のプリンを買いに行きますわよ小作人)


 僕の気持ちは色々置いてきぼりのまま、公園を後にしコンビニへ向かった。


 何故かマヤさんのお気に入りのプリンを二つも買う羽目になっていた。




   ♢   ♢   ♢




 あれから数日が経った。


「……はあ……」


 今日は気が重い。


 僕はバイト先の『麺屋 烈火』に向かう途中だった。


 一昨日の件(神社での一件)もあるので、瑠璃ちゃんと顔を合わせ難いなぁ……今日のシフトは水木純子みずきじゅんこさんと、その瑠璃ちゃんだ。彼女の方が早く入っている筈だ。


 僕はそんな事を考えると足取りが重くなり、トボトボ歩いていた。


 近道の裏路地に入った時だった。


『おい、小僧――』


 誰かが僕を呼んだ……。


 辺りを見回しても人影はない……気のせいか。


『聞こえておるか、そこの盆暗頭ぼんくらあたまよ』


 再び僕を呼ぶ声がした……何だかひどい呼び方だ。


 僕は声のした方角を見たが、やはり誰もいない?


『戯け(たわけ)が……下だ、下におるぞ……下』


 僕は声に促されるまま足元を見た――。


 そこには、グレーと白のハチワレ柄で大きな黄色い瞳の猫がチョコンと座っていた。


「あ! 君は、この間の猫又……君……こんな所でどうしたの?」


(あら……お摘みが、わたくしに喰われにでも来まして?)


 マヤの気配が鬼気として猫又の動きを封じた。


『お、おのれ……これしきの呪縛で、この我がやれると思うでないぞ! 恐れおののき畏怖いふするがいい。この鬼め!』


(ふん)


 マヤが不機嫌に鼻を鳴らしたと思うと、『きゅ~』と言って猫又はその場で伸びてしまった。


「わああ! マヤさんダメですよ、そんな乱暴な事しないで下さいっ」


 僕は思わず叫んでしまった……周りに誰もいなくて良かった。


 しばらく猫又を腕の中で介抱しながらバイト先に向かっていた。


『やや! 我は一体……』


 ようやく気が付いたようだ。


「大丈夫かい君?」


『ふーむ……おお! そうであった。この近くまで、あのむすめを見守っていたのだが、どういう訳か見失ってしまっての……小僧は知らなんだか?』


 猫又は瑠璃ちゃんの事が気になって、護衛していたのかな……。


「瑠璃ちゃんならこの先のラーメン店『烈火』でバイトしてると思うよ……僕も今から行くところだし……ついて来るかい?」


『……致し方あるまいて、忝い(かたじけい)』


 言うと猫又は腕からゆっくり降りると、素直に僕の歩く後をついてきた。


 『烈火』に到着したころ――。


「ここのお店だよ」


 僕が教えると猫又は居心地が悪そうにモジモジしている。


「どうしたの?」


『ど、どうも……ここは我が入れるようなところではないようだ……こ、これ以上近づけぬ……すまぬ。この辺の近くで、娘が出て来るのを待つ』


 そう言うと猫又はササッと再び裏路地に消えていった。


「……どうしたんだろう?」


(まあ、アレではここには入れませんわね……また見失いますわよ。ふっ)


 マヤがポツリと興味無さげに言ったが、微かにほくそ笑んだような気配が僕の中に伝わってきた。


 僕は何の事だか分らずに『烈火』の裏口の扉を開けて入っていった。


――この店に、あやかしを寄せ付けない”何か”があるということに、僕が気づくのはもう少し先の話になる。




   ♢   ♢   ♢




 夕暮れの市街地。看板のネオンが灯り始めた一角に、ラーメン『麺屋・烈火』の赤提灯が揺れていた。


 店内には、烈火の豚骨ラーメンの濃厚な香りが充満している。


「へい、お待ち! 特製烈火ラーメン、麺硬め!」


 店主の村上が、威勢の良い声と共にどんぶりを置いた。


 夕日の朱い日差しが微かに店内に差し込んでくる。


 高木瑠璃が店内の空いた片隅で味玉用の卵の殻を剥いていた。


 信也はいつものように厨房とホールを往復している。


 仕事中は話をする事はあまりないが、今日は特に無口な二人だった。


 信也はさすがに気まずい思いでいた。


 瑠璃も気まずいのだろうか……心なしか暗い。


ガラッ!


 暖簾のれんをくぐって、お客が来店。


「いらっしゃいませー!」


 元気よく信也の声が鳴り響いた。


「何名様でしょうか」


 いつもの対応で素早く接客する信也。


 券売機への案内が終わり、お水を取りにカウンターへ向かうと水木純子さんが用意してくれていた。


「はい、信也君」


 差し出されたコップを受け取ると、テーブル席のお客に持っていき、オーダーの半券を受け取ってきた。


「旨辛つけ麺大盛り入りまーす」


 信也は大きな声で言うと、半券をカウンターの上に置き、オーダーを伝えた。


「信也君」


「はい」


 純子が手招きしながら呼んだ。


「……喧嘩でもしたの?」


 信也は唐突に言われ、何のことだか瞬間的に分からなかったが、純子が小声で奥で仕込みをしている瑠璃を小さく指した。


「いや……なんていうか……」


 歯切れが悪い信也。


「信也君、仲良くしなきゃダメだぞ。勤務にもそういう雰囲気を持ち込んでしまうのは良くないからね」


 いつも優しい純子だが、今は何となく棘がある言い方であった。


「……すみません」


 信也は素直に謝るしかなかった。


 程なくしてピークタイムに突入したら、信也も瑠璃もそれどころではなくなっていた。


 気が付けばもう22時。


「おう、信也と瑠璃。お前たちはもう上がれ」


 忙しいさなかに大将が声をかけてくれた。


「はい! お先に失礼します」


「おう!」


 瑠璃はまだ、キリが悪いようでホールにいたのを横目に信也は更衣室へ向かった。


 何だか今日は疲れた……気疲れだろうか? 信也はそんな事を考えながらゆっくり着替えていた。


 更衣室の扉を開けると暗がりに、一人瑠璃が着替えを済ませて壁に寄り掛かるように立っていた。


「お、お疲れ様……早いね」


 先程迄ホールにいた筈の瑠璃が、着替えを済ませていることに驚いた信也は、気まずそうに言った。


「……先輩っ!」


 瑠璃はコクンと頷くと突然信也の胸に飛び込んで来た。


「うわ! る、瑠璃ちゃん?」


 瑠璃の身体は少し冷たく小刻みに震えているように感じた。


「私、怖いんです! ……この間撮った写真が変なんです」


「え……変? あのレンズで撮った写真?」


 信也はゆっくりと聞き返した。


「……はい……」


ガタンッ!!


 その時、厨房から繋がる扉の方で激しい音が鳴った。


「ご、ごめんなさい!」


 純子さんが瓶ジュースの補充分を取りに来ていたのだ。


「こ、これは……その! ち、違うんです!」 


 信也はとっさに瑠璃を引き離して、なぜか必死に叫んでしまった。


「ご、ごゆっくりいいいっ!!!」


 純子は補充のジュースを忘れて厨房へ走り去っていった。


「ああああああああぁぁぁ!」


 信也は走り去る純子の背中に手を伸ばし、悲痛の声をあげながら見送った。


(うふふふ、「女難じょなん」の相が出ていますわよ……小作人。くふふふふふ……)


 マヤの笑いを堪えるような声が脳裏に響き渡る。


「せ、先輩……? どうしたんですか、いきなり叫んだりして……」


 瑠璃はキョトンとした顔で信也を見上げている。


「あ、いや……な、なんでもないです……はい。で、変な写真って?」


 信也が誤魔化すように尋ねると、瑠璃はハッとして、震える手で問題の写真を信也に渡した。


「――これがその心霊写真です」


「へ……? これって――」


 信也は二度見してしまった。


「ねっ! 先輩の後ろに、物凄い黒い影のようなもやがありますよね……しかも、眼みたいな朱く光る二つの点……!」


(あら、これはわたくしですわね……良く写っていますわ)


 マヤが脳内で満足そうに、うんうんと頷いた。


――いや、ピースしてるじゃん。


 何度見ても、写真の中に写っているのはゴスロリスタイルの絶壁美少女……マヤが、信也の背後でバッチリとポーズを決めている姿だった。


 薄紅色の扇子まで広げて――。


 ドヤ顔で。


 どうやら、瑠璃には霊的な存在のマヤの全貌が見て取れず、「黒いもやと朱い眼のバケモノ」に変換されているようだった。


「……この写真を見るたび、怖くて怖くて仕方が無いんです……あれから何だか、身体の調子が良くないんです。だから先輩の言う通り、レンズの半身だというカメラボディを、私と一緒に探してください!」


 真剣な面持ちで瑠璃は震えながら懇願した。


 信也は知らず天を仰ぐ。


 ああ、無情――。


 霊感ゼロの少女には『怪物』に見え、自分には『ドヤ顔の美少女』に見える心霊写真。


 さらに、純子さんには『更衣室での熱愛発覚』と勘違いされる始末。


 僕の平穏な日常は、誤解という名の濁流に飲まれ、もはや風前の灯火のように消えていくのだった。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ