表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭魔の鬼 ~俺の意識を乗っ取る絶壁美少女は、世界最強の呪物で無双する~  作者: MASAO
第7話 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/40

暗雲陽炎 4.


――視界の端で、拓馬が無残に打ちのめされている。敵はあまりにも規格外だった。


 山のような泥の拳や、刃が振り下ろされるたび、拓馬の放つ必殺剣は通用せず、彼は吹き飛ばされながら何度も堪えていた。


(……無様ですわね。せっかくのヒーローが、ボロ雑巾のようですわ)


 このままでは全滅だ。


「マヤ……さん……」


 僕は動かない喉で、必死に呼びかけた。


「……プリン……。七、個……」


(あら?)


「全部、限定の……一番高いやつ……買って、くるから……。アイツを、倒して……!」


(まあっ!)


 少し興奮したようなマヤの声。


 刹那。


 僕の内側から、爆発的な「闇」が噴き出した。

 マヤが、僕という依り代を通じて、その真の力を現世へと呼び戻す。


(うふふ、交渉成立ですわね。……少しだけ、頑張ってみますわよ)


 マヤの不敵な笑みが、僕の唇を借りて形作られた。


 同時に、僕の背中から噴き出した漆黒の鬼気が、天を覆い尽くすように拡散していく。


 ジリジリと肌を焼いていた六月の太陽が、一瞬にして遮断された。

 昼間だというのに、辺りはまるで宵闇よいやみが降りてきたかのような仄昏さ(ほのぐらさ)だ。


 先程まで降り注いでいた熱気が嘘のように消えた。


 広場は、物理的な光さえ届かない「マヤの疑似空間」へと塗り替えられていく。


「さあ、わたくしのおやつの時間ですわよ。……覚悟なさい」


 闇の底から、凛とした、けれど死を運ぶ少女の声が響く。


「――マテリアライズ」


 漆黒の闇の中から、ニコさんのそれとは比較にならない、本物の「鬼」の気配が立ち昇った。




   ♢   ♢   ♢




 降り注ぐはずの初夏の日差しは、今や厚い暗雲に遮られ、公園には不気味な薄闇が満ちていた。


 『贋作羅刹がんさくらせつ』を掲げた(かかげた)泥の巨人が、満身創痍の拓馬へと最後の一撃を振り下ろす――その刹那だった。


 スッ、と。

 あまりにも場違いな、凛とした足音が響いた。


「無様ですわね……まあ、よく頑張りましたかしら? お小水の坊や」


 跪く(ひざまずく)拓馬の横を、涼しげな顔をしたゴスロリ姿の美少女、マヤが一瞥いちべつもくれずに通り抜けていく。


 拓馬は血に染まった視界の中で、信じられないものを見る思いでその背中を仰いだ。


「な!? ……お、お前…………待て……ぐっ」


「黙っていらして。騒ぐと舌を噛みますわよ?」


 マヤは振り返りさえしない。


 彼女の歩みに合わせ、周囲の空気が凍り付くような「静寂」に塗り替えられていく。ニコさんが放つ吐き気のするような腐臭も、絶望的な圧迫感も、彼女の数歩前で霧散していくのだ。


(ガァ、ギ……ギギギィィッ!!)


 怪異ニコさんが、本能的な嫌悪感を露わにして咆哮した。


 泥の腕が振るう『贋作羅刹』が、黒い雷光を撒き散らしながらマヤの脳天へと直撃する。


ドォォォォォンッ!!


 アスファルトが砕け、土煙が舞い上がる。


 拓馬が声を上げようとした。だが。


「……あら。その程度? 期待外れも甚だしいですわね」


 土煙の向こう側。


 マヤは右手の指先だけで、巨大な漆黒の刃を受け止めていた。


 正確には、刃に触れてすらいない。彼女の手のひらの数ミリ手前で、暴力的な鬼気の塊が「絶対的な壁」に拒絶され、悲鳴を上げている。


「偽物は、所詮偽物。その汚い泥ごと、掃き溜めへ帰して差し上げますわ」


 マヤの瞳が、深紅に燃え上がった。


 彼女の全身から、ニコさんのものとは比較にならないほど純度の高い、そして苛烈な「金剛の覇気」が立ち昇る。


金剛滅鬼こんごうめっき――邪鬼滅殺じゃきめっさつ


 マヤが静かに、左手を突き出した。


剛掌ごうしょう――」


 突き出された掌底が淡い光を帯びる。


「――鎧破がいは


 刹那、眩い閃光が辺りを包み込んだ。


 それは打撃ですらなかった。空間そのものを押し潰すような、概念的な破砕。


ドシュゥゥゥゥゥゥッ!!


 衝撃波がニコさんの巨体を真っ向から貫いた。


 山のような泥の塊が、内側から爆発するように四散していく。ニコさんの「ガワ」だったボロ布が千切れ飛び、合体していた『贋作羅刹』の刀身に、ピキリと無数の亀裂が走り天高く吹き飛んだ。


(グ、アガ……ギ、ギィィイイイイァァアッ!!)


 悍ましき(おぞましき)絶叫が響き渡る。ニコさんの核となる怨念が、必死に泥を繋ぎ合わせ、マヤを呑み込もうと触手を伸ばした。


 だが、マヤはフッと冷たく微笑むと、その場から忽然こつぜんと姿を消した。


「遅いですわ」


 次の瞬間、マヤはニコさんの背後、宙空にいた。


 彼女の指先が、空中に不可視の紋章を描き出す。


「煌めく(きらめく)紫電しでん残滓ざんし……少しだけ、龍脈から拝借しますわ――」


 そう言うと、小さな光の数々がマヤを中心に集まりだした。


 マヤの右手の刀印から「破邪の気」が増幅され、一条の閃光へと形を変えた。それは、かつて放たれた伝説の秘剣――その断片を思わせる、鋭利な殺意の白き輝き。


「散りなさい。塵芥ゴミが」


 一閃。


 空中でマヤが右手を振り抜くと、闇を切り裂く白き閃光が、公園のすべてを真っ白に染め上げた。


……沈黙。


 爆音も、泥の沸騰音も、すべてが消えた。


 空を覆っていた疑似空間の闇がガラスのように砕け散り、再び初夏の強烈な太陽が顔を出し始めた。


 着地したマヤの周囲には、ニコさんの破片一つ、漆黒の霧一片すら残っていない。


 ただ、湿った風だけが何事もなかったかのように吹き抜け、分厚い暗雲が割れてどこまでも続く青空が広がっていた。


「ふぅ……。少し、お行儀が悪すぎましたかしら? おやつを完全に消滅させてしまいましたわ……」


 パンっ、と。

 マヤは何処からともなく薄紅色の扇子を開き、ジリジリと照りつける日差しを遮るようにかざした。


「忌々しい日差しですこと……」


 マヤはパッパとゴスロリ衣服の塵を払うと、気絶している美咲や、呆然とこちらを見ている拓馬には目もくれず、一瞬にしてその『ゴスロリ姿の美少女』の顕現マテリアライズを解いた。


 すうっと輪郭がブレたかと思うと、そこには見慣れた男子高校生――信也の身体が立っている。

 だが、その瞳はまだ妖しく朱色に発光していた。


「さあ、今宵はプリンパーティーですわよっ」


 信也の身体を借りたマヤが、扇子を片手に張り切って言う。

 直後、ふっと力が抜けたように朱い瞳が本来の『黒』へと戻った。


「……そうですね……」


 意識を取り戻した信也は、全身を襲う虚脱感に耐えながら、心からの感謝を込めて胸の内に応えた。


(……あらあら、下僕。そんな顔をしても、プリン7個はまけませんことよ)


 脳内に響くマヤの声は、最高に上機嫌であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ