第七十二話「ダンジョンに挑戦しました」
お待たせしました。第七十二話です。
いよいよダンジョンへ挑戦です。
カトラスの屋敷を出て、随時休憩を挟みながら俺の足で1時間。俺たちはとある森の中にひっそりと佇んでいた小さい祠のような石造りの建物の前に辿り着いていた。
だが、その祠はあちこち崩れかけていて、その全貌を多種多様の植物が覆ってしまっている。それだけ放置されていたということは誰が見ても分かるだろう。
「全くこんなになりおって……だが、ちゃんとダンジョンとしての機能はまだあるみたいだな」
ユエが懐かしむ表情をしながら、祠の周囲をパタパタと飛び回る。ここはユエにとって並々ならぬ思い出があるみたいだ。
だが、俺は今回の訓練に対して根本的なことをまだ知らない。ここは弟子らしく、師匠のユエに尋ねてみようか。
「師匠。そもそもダンジョンってなんだ? 聞いたことはあるけど、どういうものなのかよく分からないんだ」
「む、そういえばそこを説明していなかったな。……と言っても我にもダンジョンはよう分からん。分かるのは、ダンジョンは我が生きていた時代からあるということと、入ればその都度魔物が湧いているという点だな」
俺からの質問にユエが頭を捻る。まあ今でも解明されていないダンジョンの全貌をユエが知っている方が驚きだ。だが、ユエはあまり気にしない様子で、すぐにけろっと話し出した。
「まあ細かいことは気にせんでもいいだろう。我々はここで強くなれれば良いのだから」
「……それもそうか。ちなみに、ここのモンスターは俺たちで倒せるのか?」
「無論じゃ。ここは闇属性に弱い聖属性のモンスターが多く湧く。ルーナの魔術であれば倒せないことはないだろう」
「そうか。それなら安心……」
「だが、聖属性と闇属性はお互いに弱点をつける存在ということを、ゆめゆめ忘れるでないぞ。ここのモンスターは軒並み強いからな。油断すれば命取りぞ」
「……ああ。分かってる」
「ならば良し。では、早速入るとしよう」
得意げに語り終えたユエは自ら率先して入り口に垂れ下がる蔓を掻き分けながら入っていく。俺も1つ大きく息を吐いてから、ユエの後に続きダンジョンに進入した。
ダンジョンの構造は至ってシンプル。まずは奥の部屋まで続く一本道にひしめくモンスターらを倒して、その奥にいるモンスター——いわゆるフロアボスを倒せば次の階へ進めるという仕組みだ。ちなみに、ユエ曰くこのダンジョンは10階層あるとのこと。それぞれどんな強敵が湧き出てくるのか楽しみだ。
早速俺たちは1階層の一本道に湧いて出たモンスターたちを撃破しながら進んでいた。ユエの言う通り、道中は闇魔術に弱い聖属性のモンスターが数多く発生していた。
そんなフロアボスへの道すがら、ユエは今回の訓練の目的について話してくれた。
「今回、我々には2つの目的がある。まず1つ目が純粋な魔力量の強化。ルーナは以前より魔力消費の効率化を学んでおったと言っていたな。それでも魔力量は多いに越したことはない。カリアと闘うならば、尚のことだ」
確かにあの時カリアと闘った時はあっという間にカリアに打ちのめされ、彼女の本気さえ引き出すことができなかった。
それはつまり、俺たちはまだカリアの手の内をほとんど知らないのだ。それならばそれに備えるためにも、魔力量は多いに越したことはないというユエの見解は一理ある。
「そして2つ目。むしろこちらが本題だな。それは我とルーナの連携力強化だ。先のギースとの闘いでそれを否応にも実感させられた。数的有利は戦闘で優位に立つ基本であり、なおかつ魔力量を底上げした我らがカバーし合うように動けば魔力の消費はより抑えられる。フロアボスとの闘いでは、そこを意識して臨むぞ」
「……了解!」
これまで甘いものに目がくらんで人目も憚らず食べまくっていたり、マルシアと取っ組み合いの喧嘩をしたりしていたポンコツなユエはどこへやら。
今俺の目の前にいるのは、確かに遥か昔の時代を生きた、偉大なる闇魔術師だ。かつて見た人間姿のユエを今のユエに投影してしまうほど、その存在は尊大に見えた。
——と、そんなことを考えていると、ユエが急にこちらを振り向き怪訝そうな視線を向けてきた。
「……お主、何か我に失礼なことを考えてはいまいな? なんかいや〜な予感がしたぞ?」
「別にそんなことは考えてないぞ? 今まで師匠としての面目を丸潰しにしていたユエが、今はちゃんとかっこいいなあって考えてただけだから」
「……むっかあ! お主、やはり失礼なことを考えておったな! こうしてくれるわあ!」
「うわちょ、魔力の無駄遣いは……ってうわあああ!」
怒り心頭のユエはすっかり我を忘れてしまい、風魔術のウィンドカッターを俺に向けて乱射してきた。
俺は慌てて逃げるようにボス部屋のある方へ走ったが、ユエはそれを逃すまいと魔術を撃ちながら鬼の形相で追いかけてくる。そのまま追って追われての逃走劇を繰り広げているうちに、気づけばボス部屋の前に到達していた。
ふと俺たちが走ってきた方角を息を切らしながらチラッと見ると、そこにはユエの乱射した魔術が命中して伸びているモンスターがそこら中に転がっていた。あれが俺に当たってたらと思うとゾッとする。
「ちよっとユエ! 死ぬかと思ったぞ!」
「抜かせ! お主が阿呆なこと言うからだ!」
危うくこのまま水掛け論になるところだったが、「連携力強化」の手前、ユエが開きかけた口を閉じて1つ咳払いをする。
「……この件はダンジョンを出たらきっちり落とし前つけてやる。だから——精々死ぬなよ!」
「臨むところだ。ユエこそ、途中でへばるなよ!」
俺とユエは互いに軽口を叩き合いながらボス部屋の扉を開く。——さあ、本格的に訓練を始めようか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は4日投稿予定です。




