第七十話「ギースの虜になりました」
お待たせしました。第七十話です。
ギースの攻めににルーナはどう対処するのか、見守りましょう。
ギースと婚約を結んでからというものの、俺は自分が自分でいられないような感覚に囚われてしまっていた。
結局、ギースにお姫様抱っこで運ばれた後もソニアやユエから根掘り葉掘り聞かれてしまい、朝食もほとんど喉を通らなかった。
そして、そんな俺は今、中庭の木陰にあるベンチでギースに膝枕されていた。
「ふふ、今日のルーナは一段とらしくないね。ほら、そっちばかり見てないで、少しは僕の方にも顔を向けてほしいな」
「……嫌です。これ以上、ギースに振り回されたくはありませんわ」
「おやおや……これは嫌われてしまったかな」
そっぽを向き続ける俺に対して、ギースは困ったような声を上げる。だが俺は決してギースが嫌いでそっぽを向いているのではない。これ以上ギースを見たらどうにかなってしまいそうだからだ。もう、顔を見るだけでも謎のドキドキが止まらなくなる。
俺が頑なに振り向かないと察したギースは、今度は俺の頭を撫で始めた。突然の感触に俺は思わず飛び起きてしまった。
「ひゃっ……! ちょっとギース、いきなり何を……はっ!」
「やっとこっち見てくれたね、ルーナ」
「……もう、意地悪ですわよ!」
「ごめんごめん……でも、怒ったルーナも可愛いな」
「〜ッ!」
ギースは完全に俺の反応を見て楽しんでいる。もはやペースは完全に向こうにある。……このままいじられ続けるのは性に合わない。ここは、俺からも打って出よう。
「……もう完全に怒りましたわ。これはギースに埋め合わせしてもらわないと機嫌が直りそうにありませんわね!」
「それは困ったな。一体何をすればいいんだい?」
「……では、失礼しますね」
「あ、ちょっとルーナ、何を……」
ギースが問うよりも早く俺はギースの手を掴んで、そのままその手を俺の頭の上に乗せた。そして、自分でギースの手を動かしてアピールする。
「さっきの続き、していただけませんこと?」
「おお、まさかルーナから求めてくれるとは……! いいよ、ルーナのお望みとあらば」
作戦成功。こちらから要求したことに感極まったギースは、向かい合いながら俺の頭を撫で始める。撫でられる感触とギースからの目線でまた力が抜けてしまいそうだが、まだ俺の作戦は終わっていない。
俺はギースの顔に手を触れると、不意を突いて俺の方からギースの唇を奪った。その後すぐ唇を離してギースを見やると、自分の唇を押さえて固まってしまっている。
やはり不意に抱きついた時同様だった。ギースは他人にすることは得意でも、されることには慣れていない。俺はこの好機を逃すまいと言葉の追い討ちをかける。
「あら、まさか私からされるなんて想像もしておりませんでしたか? やはりギースは初心ですわね」
「……ハハ。まさか君に一本取られるとはね。……でも、ルーナからしてきたということは、合意の上ってことでいいよね?」
「えっ? いえ、そういうわけでは……ムグッ!」
「ルーナには申し訳ないけれど、僕も負けず嫌いなんだ。だから、これはお返しさ」
「……もう、こういう面ではギースに敵いませんわね。私の負けですわ。——もう、これではギースを受け入れる他ないではないですか」
「お、覚悟の上だったんだね。それなら……遠慮なく行くよ」
「あっ、ちょっと待っ……」
俺の降参宣言に歯止めが効かなくなったギースは、貪るように俺とキスを続ける。ある程度挑発するつもりのはずが、もはやギースは止まらない。
しかし、初めは恥ずかしさで堪らなかったキスも、自分から仕掛けた影響からか抵抗感はすっかり消えてしまった。2人はそのまま、しばらく唇を重ね続けた。……キスって、こんなに気持ちいいものだっただろうか。
それからその日はずっと、俺とギースの仕掛け合いが続いた。俺がギースの胸に飛び込んでみたらギースがそのままキツく抱きしめてきたり、並んで歩いている時にギースが手を繋いでこようとしたら俺が逆にギースの腕に抱きついたりした。
もちろんそんなことを続けていれば屋敷内の人たちの目にも自然と留まり、気づけば使用人らの間では俺とギースの話題で持ちきりになっていた。それは俺たちが通り過ぎるだけで、使用人たちから黄色い歓声が上がるほどだ。
そんな使用人らの反応も楽しみつつギースとの仕掛け合いを楽しんでいるうちに、気づけばすっかり夜も更けてきた。寝る前の準備を済ませ、できれば今日は何かと疲れたので早めに寝たいのだが……そうは問屋が卸さなかった。——そう、あろうことかギースはまだ俺の部屋に居座っているのだ。
「……あの、ギース。いつまで私の部屋にいるつもりですの?」
「いつまでって……今日はこのままルーナの部屋で過ごすつもりだけど?」
「は? ……はあ? いやいやいや、いくらなんでもそこまでは……」
「僕もそう思って、さっきルーナがお風呂に入っている間にルーナのご両親に空き部屋がないか聞いたんだけど……今は僕に貸せる部屋はないってさ」
「……なんてことをしてくれてますの」
もちろん空き部屋がないなんてのは嘘だ。使ってない部屋なんてそこら辺にあるというのに……我が両親よ、俺にどうしろと言うのだ。
「ほら、寝る前にそんな考え事してたら眠れなくなっちゃうよ。早く寝ないと」
「あ……ちょっとギース、押さないで……きゃっ」
「おっと、大丈夫かいルーナ……あっ」
ベッドに促そうとするギースの手にバランスを崩してしまい、俺はギースの手を掴んでベッドに倒れ込んでしまった。そう、それはまるでギースが俺を押し倒したかのような体勢だ。……でも、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、彼ならば——彼だからこそ、安心できる。
そんな俺の考えを読み取ったかの如く、ギースはその体勢のまま、俺の頬を撫でながら求めてくる。
「……ルーナ、今夜は一緒にいよう」
「……優しく、してくださいね」
ベッドの上で見つめ合う2人は、そのまま愛を確かめ合うように体を密着させたのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は29日投稿予定です。




