第六十九話「男の俺でも堕ちそうでした」
お待たせしました、第六十九話です。
ギースからの攻めにタジタジなルーナをお楽しみあれ。
「大丈夫かいルーナ。少しは落ち着いたかな?」
「……ええ。だいぶ冷静さは取り戻せたようです」
結局、ギースがしばらくここに泊まると宣言した時にも俺は枕を振り回して大暴れしてしまい、朝からすっかり疲労困憊してしまった。
それを見たギースは目にも留まらぬ速さで、厨房から持ってきたハーブティーを淹れて俺に差し出してきた。そのお陰もあり、今は平常心でいられている。
しかし、ハーブティーのおかげでようやく周りの状況を把握できるようになった俺はとあることに気がついた。——そう、いつもは俺の枕元で丸くなって寝ているはずのユエがいないのだ。
いつもは必ず俺よりも遅く起きる寝坊助なはずのユエがどこにも見当たらない。昨晩寝る時は確かに隣にいたのだが。ギースならば行方を知っているかもしれないと思い、念のため尋ねてみた。
「あの、ギース。ユエがどこに行ったかご存知ありませんか?」
「ユエさんかい? うーん……僕がここに来た時には既にいなかったなあ……」
「そうですか……どこに行ったのでしょう」
いつもならこの状況を隣から「愛いやつだな!」と面白がってくるはずのユエがいないのは少々気がかりだが、朝食の時間になればふらっと現れるだろう。
そう自分に言い聞かせて話題を切り替えようとしたその時、廊下の方からドタバタと慌ているような足音が鳴り響くのが聞こえた。言わずもがな、こんな調子で俺の元へ来る存在は1人しかいない。
「ルーナさまあああ! ご無事ですかああああ!!」
過去に聞いたことがあるようなフレーズと共に、カリアが俺の部屋に文字通り転がり込んでくる。相当急いできたのだろう。ただでさえ癖っ毛で跳ねている髪の毛が更に跳ねまくっている。俺が何用か尋ねると、カリアが血相を変えながら声を響かせる。
「ルーナ様の部屋から悲鳴が聞こえた気がしたので馳せ参じましたあ! まさか侵入者です……か……?」
「やあカリア。朝から元気だね」
「えぇっ!? な、なぜギース様がかここにい?! ……まさか、いやでも……えっ?」
いるはずのないギースを見てカリアはあからさまに混乱している。どうやら彼女は何も知らないようだ。その証拠に部屋の入り口で右往左往している。
そんなカリアに事情を説明でもしてあげようとベッドから出ようとしたその瞬間、またしても俺の部屋に飛び込んで来た何がカリアの右頬に衝突し、カリアは大きくのけ反ってしまう。更に、その侵入してきた者は間髪入れずにカリアを捲し立てた。
「おいカリアめ! せっかく2人きりで良いムードのところを邪魔するでない! ほれ、さっさと出るぞ!」
「いてて……もう、何するんですかユエ様! 離してくださいい!」
カリアはユエに引っ張られて退場しそうになっているが、ユエの言動から、俺は一つの仮説を立てた。それを問いただすべく、俺は急いで部屋のドアを閉じてユエの行方を阻んだ。
「おいルーナ、そこを開けてくれ——」
「ユエ〜?まさか、ギースがここにいるのは貴方の手引きかしら?」
「……な、何を言っておるのかさっぱり分かんないな〜」
と言いながらユエはそっぽを向いて吹けない口笛を吹いている。だが、ギースの一言でユエのしらばっくれは無駄に終わる。
「おや、僕は君にルーナのご両親への伝達をお願いしたじゃないか。——高級マカロンセットと引き換えにね」
「ばっ……小僧、それを言うでないわ!」
「へえ……ユエ、マカロンのために私を売ったのですか? マカロン、美味しかったかしら?」
「ちがっ、あの……ハイ。オイシカッタデス」
追い詰められたユエはすっかり諦めて白状した。愛弟子よりも食欲を優先するとはユエらしいといえばそうだが、なんだか複雑な気分だ。
更に、ギースの証言にてこの件は両親とも知っていて、尚且つ許可を出した張本人であったことが判明。……完全に外堀を埋められつつある。
かつての親バカっぷりの再来に呆れつつも、俺は一言文句を言ってやろうと部屋を出ようとする。しかし、それはギースが俺の右腕を掴むことで阻止されてしまう。
「おやルーナ。僕を置いてどこかに行くなんて感心しないな」
「……急用ができましたの。手を離してくださらない?」
「おっとそれは困るな。じゃあ、ルーナを逃がさないようにしないとね」
「それはどういう——きゃあっ!」
俺が言い終わるよりも早くギースは俺を壁際に追いやり、両手を俺の頭の横について進路を妨害してくる。いわゆる壁ドンというシチュエーションに俺は頭が真っ白になった。(この間、ラブコメの波動を感じたユエが無理矢理カリアを引っ張りながら退室したことはわからなかった)
そして、ギースが俺の目を見ながらだんだんと顔を近づけてくる。このシチュエーションにドキドキしてしまうのは、恐らくルーナの根幹が影響しているのだろう。なんてったって年頃の女の子だものな。
すると、ギースは俺に顔を近づける途中で優しく問いかけてくる。
「どうしたんだいルーナ。嫌なら、僕の手を潜って抜け出してもいいんだからね」
ギースはそう言うが、婚約すると決めた手前退くわけにはいかない。自身に向けられる好意は、しっかり受け止めてあげるべきだ。
俺は意を決して目を閉じる。それはギースに「逃げない」と意思表示をするものでもあった。それを見たギースは片手で俺の顎を支え、唇を優しく重ね合わせてきた。
「——ッ!」
ギースとのキスはこれで2回目だが、いきなりされた最初とは違ってギースの唇の感触が脳に伝わってくる。これは……俺でもまずいかもしれない。
——どれくらい続けていたのだろうか。ギースが唇を離した瞬間俺は腰が抜けてしまい、壁を背にしてズルズルとへたり込んでしまった。朝からこんな調子では本当に身が持たない。
しかし、そんな俺にギースから更なる追い討ちを仕掛けられる。
「大丈夫かいルーナ。……そろそろ朝食の時間だし、すまないがこうさせてもらうよ——!」
「えっ——ひゃああっ!」
腰砕けで動けない俺をギースがお姫様抱っこし、そのまま食堂まで運ばれてしまった。幸いそこにギルバートはいなかったが、居合わせたユエとソニアからの好奇な目線は恥ずかしいとかの次元ではなかった。
ソニアやユエには色々言いたいことがあったのだが、その時点で文句を言える気力は、俺にはもう残ってなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は26日投稿予定です。




