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第六十八話「心臓が休まりませんでした」

お待たせしました。第六十八話です。

晴れてルーナとギースは婚約関係になれましたね。今後の展開にもご注目ください。

 未だ盛り上がりが冷めやらぬビュッフェ会場に、俺とギースは寄り添うようにしながら戻った。すると、既に俺がいないことに気づいていたマルシアとユエが目ざとく俺たちの元へ詰め寄ってきた。


「おうおう、どうした我が弟子よ。顔が茹で上がったように真っ赤ではないか。ギースと2人きりで一体何してたのだ?」


「そ、それは……その……」


「まさか、チューしてたなんて言いませんわよね?」


「…………」


「……あの、何故何もおっしゃらないのですかルーナ様? ……はっ! まさか本当に——!」


「やめてマルシア! それ以上は……言わないで……」


 明らかに動揺を隠せていない俺を見てにやけ顔が止まらないマルシアとユエ。——それもそのはず。マルシアの言っていたことが本当にあったからだ。


 時は俺がギースからの婚約の申し出を承諾した頃まで遡る。あろうことか、ギースは歓喜のあまり俺の唇をいきなり奪ってきたのだ。

 いつになく強引なギースに驚くあまり俺は逃れるタイミングを逸してしまい、ギースからの口付けを受け入れる他なかったのだ。……今思い出すだけでも顔から火が出そうで仕方ない。

 無論そんな状態の俺をマルシアとユエは逃すわけもなく、矢継ぎ早に追及してくる。


「そうかそうか。見つめられるだけで赤面しておったルーナがとうとうやってくれたなあ……」


「それでそれで、初めてのキスの感想はありますの?」


「…………」


「おや、ルーナが答えないなら僕から答えようかな。それもうルーナの唇は——ってルーナ。照れ隠しに腰をつつくのはやめておくれ」


 マルシアからの問いにギースは恥ずかしげなく感想を語ろうとするのを阻止した。しかし、俺が恥ずかしさを感じたのはそのエピソードだけではなかった。


「……その、ギース様……私の名前、呼び捨て……」


「ああ、それかい? 最早僕たちは他人同士ではないのだし、お互い敬称は不要かなって思ったんだけど……ルーナは嫌かな?」


「いえその、嫌というわけではなく……」


「……ああもう焦ったいわ! ほれ、しゃんとせんか!」


「痛っ! ちょっとユエ、なんでつつくのです?!」


 しどろもどろになっている俺に痺れを切らしたのか、ユエは俺の右頬をこれでもかという勢いでつついてきた。何をするのかとユエを睨むが、ユエは気にしない素振りでギースの方へさりげなく視線を送る。

 そのユエに釣られるように視線を向けると、そこにはギースが眩しいほど煌めいた微笑みで俺を見つめていた。さっきのことがあった手前、何故かギースを見つめると心臓の鼓動が早まってしまう。まさかこんなことになるなんて、転生した頃の俺は思いもしなかっただろう。

 まだ心臓の鼓動は早いまま、俺は震える口を開いて答えを返した。


「私は構いませんわ。……その、ギース」


「うーん、家族以外から呼び捨てで呼ばれるこの感覚……ぜひこれからはギースと呼んでくれよ、ルーナ」


「……もう、仕方ありませんわねっ!」


 一見すれば、付き合いたてほやほやのカップルみたいな俺とギースのやりとりにユエとマルシアは揃って黄色い歓声をあげている。見せ物ではないと言いたいところだが、今の俺にはそんな余裕は無かった。

 更に、マルシアらの歓声に惹きつけられるようにそのやりとりを見ていた周りも続々と集まってしまい、俺とギースの婚約関係はあっという間に関係者間で広まってしまったのであった。

 かくして、波乱の展開が目白押しであった王城お泊まり会は幕を閉じ、俺はカトラス邸への帰路についたのであったが、これだけでは俺の心の安らぎはまだ訪れないことを、この時の俺は知る由も無かった。

 


 そして、無事我が家に着いて翌朝。自分の部屋で目を覚ました俺は、目の前に広がる光景に理解が追いつかずにいた。


「やあ、おはようルーナ。お腹は空いてないかい? 簡単でよければ僕がフルーツを厨房から持ってきて剥いてあげようか」


「……なぜここにいるのですか、ギース」


 そう、何故か俺の部屋にギースが堂々と居座っていたのだ。誰が許可したのかは知らないが、寝ている女の子の部屋に入るなど、前のギースからは想像もつかない。……後で必ずここにギースを招き入れた犯人を炙り出してやろう。

 俺は身の危険を感じて布団を盾代わりに身を隠すと、部屋の椅子にもたれかかっていたギースがこちらに急接近し、俺のそばでベッドに腰掛けて突如耳元で囁いてきた。


「何故って——せっかく君と婚約関係になったんだから、2人水入らずで過ごしたいと思ってね。……ルーナの可愛い寝顔、バッチリ堪能させてもらったよ」


「〜〜ッ!」


「ちょっ、やめてくれルーナ。勝手に入ったのは謝るから……!」


 突然耳元で羞恥心を煽ってくるギースに対して、俺は言葉にならない怒りと恥ずかしさを込めながら枕を振り回して応戦する。ギースは口先で謝りはしたものの、やはりまだ俺を揶揄っているようにしか見えない。

 その証拠に、ギースはとんでもないことを口にしたのであった。


「あ、ちなみに今度は僕がルーナの屋敷にしばらくお邪魔させてもらうことになってるから。よろしくね、ルーナ」


「……えええぇぇっ!」


 王城で仲間内とお泊まり会をした次は、ギースと2人きりでのお泊まり会なんていうイベントにまで発展してしまうとは。……あの時の返事、間違えちゃったかなあ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回は23日投稿予定です。

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