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第六十七話「重大決心をしました」

お待たせしました。第六十七話です。

誕生日にルーナは何を思うのか……。

 ビュッフェパーティ改め、俺の誕生日パーティは大盛り上がりとなっていた。それぞれが食べたり話し合ったりで思い思いに楽しんでいる。

 そんな会場の熱に当てられて少し疲れてしまった俺は、バルコニーに出て風に当たっていた。少し小さくなった喧騒を背に、眼前に広がる王都の景色を眺めるのもなかなか乙なものだ。


 久しぶりに1人の時間を手にしたことにより、俺の脳裏にはルーナとして転生してきた様々な記憶が蘇ってきた。

 ダンから料理を教わり、両親との関係性を再構築し、学園ではメリアや攻略対象たちと友好な関係となった。

 初めはゲームのシナリオ通りにさせまいという理由で関係を築いたが、今はそんな当初の思いは消えつつある。みんな、俺のかけがえのない存在だ。


 ——と、そんなことを思い耽っていると肩に軽い何かが被さる感覚があった。確認してみると、それはブランケットであった。


「ルーナ嬢、こんなところに居続けたら風邪をひいてしまうよ」


「あらギース様。……ありがとうございます」


「どういたしまして。……さて、僕も失礼させてもらおうかな」


 突如現れたギースが気を利かせて俺にブランケットを羽織らせてくれたようだ。ギースはこういう細かい心配りができるところがズルい。

 ブランケットを俺に掛け終えたギースは俺の隣でバルコニーの柵にもたれかかると、早速俺に話しかけてきた。


「さっきは何やら懐かしむような顔してたけど、一体何を考えていたんだい?」


「それは……今までのことを色々と。ここまであっという間だったなと、感傷に浸っていたところですわ」


「確かにあっという間だったね。……いやあ、あの時が懐かしいよ」


「ん? あの時とはなんですの?」


「僕とルーナ嬢が初めて出会った時だよ。寮の裏庭で婚約を申し込んだ、あの日のことさ」


「なっ……!」


 ギースに言われて思い出した過去の情景に、俺は思わず心を跳ねさせてしまった。その時の衝撃は今でも忘れられない。……気絶してしまったほどだし。

 だがせっかくの機会だ。この際ギースに色々言いたかったことを言っておこう。


「もう……あの時はいきなり婚約を申し込まれて本当に驚きましたのよ? ましてや王子ともあろうお方が、初対面の私にですもの。常識はずれも良いところですわ」


「ははっ……それは悪いことをしたね。でも、ルーナ嬢がパーティで目立つようなことをしたのにも責任はあるよ。僕はそれで君に興味が湧いてしまったんだから」


「……返す言葉もありませんわね」


「それに、常識はずれは君も同じだろう?」


「そうですか? あまり自覚はありませんが……」


「……それ、本心で言ってるのかい? いきなり武闘大会で優勝したり、グリフォンとかの強大な魔物に一騎討ちで挑んたりしたかと思えば寮を勝手に抜け出して街でファストフードを頬張ったり……この数ヶ月でよくこんなにエピソードが出てくるものだよ」


「うっ……そ、それは……」


 ギースから俺の行動が回顧されるたびに、段々気恥ずかしくなってくる。全ては生き残るためと言い訳したくなるが、思い返せば確かに令嬢らしからぬ行動ばかりだ。


「まあ、僕はルーナ嬢のそんなところに惹かれたわけだしね。——君のそういうところも素敵だよ、ルーナ嬢」


「えっ? ……ひゃあっ!」


 ギースからの突然出てきた愛の言葉に驚いたのも束の間、ギースは俺の肩を掴んで自身の方に振り向かせてきた。ギースらしくない強引な行為につい女の子らしい声が出てしまう。

 振り向かせられて見るギースの目はいつにもなく真剣だった。そんなギースの眼差しから、俺は何故か逃れようとは思えなかった。そうやってお互い見つめ合ったまま、ギースは口を開いた。


「あの時は一目惚れの勢いで婚約を申し込んだが、君の色んなことを知ることができた今、改めて言うよ。——ルーナ・カトラス。僕と、婚約を結んでくれないか」


「——ッ!」


 いつか、この日が来るとは覚悟していた。……していたつもりなのだが、いざ目の前にすると緊張が走ってしまう。

 ——初めて告白されたあの時はギースのことはよく分からず、ただ破滅ルートの危険がある攻略対象の1人としか見えておらず、敬遠気味であった。

 しかし、あの時と違うのは俺も同じだった。今肩に掛かっているブランケットみたいな何気ない気配り、落ち込んでいた時のさりげないフォロー、王子としてのカリスマ性。それでいてこちらから仕掛けたらフリーズしてしまう初心さ。そんなギースの魅力に充てられていくうちに、もはや彼をを危険人物として捉えることは難しくなっていた。

 そして、大事なのは俺自身の気持ちではなく、この時ルーナならどう感じるかだ。先ほど挙げたようなことをされた時、ルーナはギースにどんな感情を抱くか。……それはもう、考えなくても明白だった。母ソニアの教え通り、ギースの気持ちに誠心誠意向き合おう。


 第二の人生における重大な決心をした俺は1回だけ大きく深呼吸をして気を入れ直すと、俺の肩を握るギースの手をそっと下ろして、軽くお辞儀をしながら、ギースの目を見据えて彼への返答を口にした。


「……はい。こちらこそ——よろしくお願いします」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

次回は20日投稿予定です。

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