第六十五話「絆が深まりました」
お待たせしました。第六十五話です。
今回はメリアクローズアップ回です。
「つ、疲れましたわ……」
ギースとの一戦後、俺はというと来賓室のベッドに力なく横たわっていた。決闘自体は短期決着だったので肉体面の疲労感はないが、ギースと闘うというプレッシャー、新技の披露、そしてユエからの質問攻めもあって精神面での疲労がかなり大きい。
「ルーナ様、大丈夫ですか?」
「私が癒して差し上げますうう……!」
「ありがとうメリア。カリアも気持ちは嬉しいのだけど……逆に痛いわ、それ」
メリアがせっかく聖魔術で癒してくれているのだが、カリアのマッサージによるダメージが大きすぎて相殺されてしまっている。……もしメリアがいなかったら俺の体はどうなっていたのだろうか。
一方で俺の疲労の原因となったユエはというと、何やら独り言を言いながら夢現な状態で部屋のあちこちを飛び回っている。恐らくは俺が教えた情報の復唱でもしているのだろう。
「なるほど、あれをこうすることで……イヒヒ」
「もうユエちゃん! 貴方が師匠とおっしゃるのなら、弟子であるルーナ様を少しでも元気づけてくださいませ!」
「……おいマルシアよ。いい加減その『ちゃん』付けはやめてくれんか。むず痒くてかなわん」
「嫌ですっ! 貴方の元はクロウちゃんなんですから、貴方も同じ呼び方で呼ぶのです!」
「なっ……! 生意気な小娘め、我と張り合うつもりか!」
「むっ! 生意気なのはどちらですの?!」
——と、ユエとマルシアは非常にどうでもいいことで取っ組み合いの喧嘩を始める。……正直、2人の声は頭に響くので疲れている今はやめてほしいのだが。
そんな俺の心情を察してか、メリアは握っていた手を俺から離すとユエとマルシアのところへ歩みを進めた。
「ユエ様。マルシア様。今はルーナ様が療養中なのです。静かにしてくださいますか?」
「メリアとやら、今回ばかりは我とて引き下がれんのだ!」
「こちらは大丈夫ですから、メリアさんはルーナ様の治療に専念してくださいまし!」
「……もう一度言います。静かにしなさい。これ以上騒ぐなら、許しませんよ?」
「……ハイ、スミマセンデシタ」
謎の圧力によりマルシアとユエを黙らせたメリアは、やがて今までの優しい表情に戻って俺に回復魔術をかけ始めた。
メリアの圧力を知っているカリアは、メリアが近くに来るだけで「ひいっ!」と情けない声をあげていた。それにしても、メリアの説教はそんなに怖いものなのだろうか。俺には分からない。
——という訳で、今の来賓室は俺以外がメリアに完全にビビってしまっているという中々にカオスな状況下になってしまっていた。
誰かこの状況をなんとかしてくれと心から願った瞬間、部屋をノックする音が聞こえてきた。この展開を待ってましたと言わんばかりに、俺は少し食い気味に入室を促す。
「失礼します。ルーナ様に皆様方」
「……ダン!」
部屋を訪ねてきたのは昨日の昼辺りから姿を見せていなかったダンだった。久しぶりのダンの姿に心のどこかで安堵を覚える俺がいる。
「ダンさあん! 今までどこに行ってたんですかあ?」
「いやあ、本当は昨日には終わるはずだったのですがねえ……」
「ん? 一体何かあったのですか?」
「それがあれやこれやとこだわっている内に……おっとこれ以上は言えません」
話の途中でふと気づいたかのようにダンは口を噤む。続きが気になるが、ここで聞き出すのは野暮というものだろう。そう思った俺は、話の方向性を変えることにした。
「それで、ダン。ここへはどういった用件で?」
「ああ、すっかり忘れておりました。今日の夕食の案内に参ったのです。今回は私とペパーが共同で作ったビュッフェ形式となっておりますよ」
「なぬっ! ダンと——」
「ペパーさんの作ったビュッフェですの……!?」
「これは早く食べに行かないとですねえ!」
ペパーの話が終わるなり、マルシアとユエ、カリアは待ちきれない様子で部屋を出ていってしまった。……ユエとマルシアは分かるが、なぜ俺の従者兼護衛であるはずのカリアまで行ってしまったのだろうかと怒りの感情が少し湧いてくる。後で叱っておくとしよう。
「えっと……皆さん行っちゃいましたね」
「もう、食い意地の張った方が多いこと……。私たちはゆっくり行きましょうか」
「では、私が案内しますよ。着いてきてください」
そうして、先に行ってしまった3人を追いかけるように、ダンの案内で俺とメリアはビュッフェ会場へと足を運んでいた。歩いている道中、ふとメリアが話しかけてくる。
「なんだか、こうしてルーナ様と2人になるのは新鮮な気がしますね」
「言われてみればそうですわね。メリアがいる時は必ず、今いない3人の内の誰かがいましたものね」
すると、メリアがやけに神妙な面持ちで俺に言葉を投げかけてくる。
「あの、ありがとうございました。ルーナ様」
「え、どうしたのメリア。急に改まって」
「最初のパーティの時、もしあそこでルーナ様が助けてくれなかったらと考えることがたまにあるんです。そうなれば、私はルーナ様を慕うどころか、逆の感情を抱く可能性だってあったのではないかと。世間の評判通り、『闇魔術の使い手』というだけで。そうなれば、私は学園で孤立してしまっていたのではないかと」
「うっ……そ、そうだったのね……」
物語の核心をつく発言をするメリアに、俺は思わずたじろいでしまった。だがメリアの言うことも尤もである。仮にあそこで俺がメリアを助けなかったとしたら、ゲームのシナリオ通りに俺はゲームの主人公であるメリアを目の敵にしていたかもしれない。そうなれば、俺が今この場に立っていることすらも危うかったというわけだ。
「ですので……私と友達——いえ、親友になってくださってありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
「それは私もですわ。もし貴方があそこで勇気を出して私の暴走を止めてくれなければ、私の——ひいては闇魔術への印象が悪くなっていたかもしれません。そうすれば学園で孤立していたのは私の方だったのです。だから、ありがとうメリア。私の親友でいてくれて。これからも、私の親友でいてくださいます?」
「……! はい、もちろんです!」
こうして、ふと訪れたこの瞬間でメリアとの絆をより深く深めることができた。しかしこの間、少し前を歩いていたダンが感激のあまり涙を流していたのは、俺たちは知る由もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は14日投稿予定です。




