第六十二話「再戦を申し込みました」
お待たせしました。第六十二話です。
ルーナとユエ、時を超えた絆は本物です。
「ルーナよ……頼むから機嫌を直しておくれ。我が悪かったから」
「……ふんだ。一体誰のせいで俺まで牢に入れられたと思ってるんだよ」
あれから一夜明け、無事牢から出ることができた俺たちはメリアたちが待つ部屋へと戻るため城内の廊下を歩いていた。
だが、牢屋のベッドはお世辞にも寝心地が良いとは言えず、俺はまともに寝ることができなかった。お陰で気分は最悪だ。隣でユエが爆睡してたという事実も余計に腹立たしい。
流石にこれにはユエも反省したのか、あれやこれやと俺の機嫌を取ろうとしてくる。……正直俺に色々へりくだってくるのは、先祖としての面目が色々潰れてしまうのでやめてほしいのだが。
そんな感じでユエとワーワー言い合っていると、廊下の反対側から金髪の青年が歩いてくるのが見えた。急いで俺は襟を正し、素の状態からルーナモードに切り替える。
「あら、ご機嫌ようギース様」
「おはようルーナ嬢。……あんな牢屋では居心地が悪かっただろう? 君をあんなところに閉じこめるのは心苦しかったけど、王族に危害を加えた以上は何かしら罰は与えないといけないんだ。ごめんね」
「それは重々承知しております。私は大丈夫なのでご心配なく。ユエにも後でちゃんと言って聞かせますので」
そう言いながら俺はユエの頭を指で軽く叩いてやる。ユエが不服そうに俺を睨みつけてきたような気がするが、ここは見なかったことにしておこう。
しかし、ユエに気を取られていた俺は、ギースが俺に急接近しているのに気づかなかった。
「本当に大丈夫かい? なんだか目にクマもできてるみたいだし、眠れてないんじゃないか?」
「ひゃっ……! い、いえ……本当に心配には及びませんので……!」
「そうかい? でも無理はダメだよ」
突然ギースが俺の頬を手で挟み込みながら顔を覗きこんできたので、俺は思わず変な声が出てしまった。それを見ていたユエは吹き出しながら笑いを必死に堪えていていたので、今度は俺が睨みつける。
ただ、これ以上は流石に男の俺もギースの魅力に耐えられそうにないので、なんとか話題をズラすことにした。
「あ……そうだ! ゼノ様は大丈夫なのでしょうか?」
「うん、メリア嬢が力を貸してくれたお陰ですぐに目が覚めてたよ。僕が言うのもなんだけど、ゼノ兄様の生命力は凄いからね」
「……ところで、ゼノは我のことを何か言ってなかったか?」
「うん。目が覚めるなり『何このパワー! ますますユエに興味が湧いてきた!』って言ってたよ」
「うっ……これはまた面倒なやつに目をつけられたな」
「ふふ……ようこそこちら側へ……」
これでユエにもゼノという人物の厄介さが身に沁みたであろう。俺、ギース、ユウラ、ジェイド、そしてユエ……ゼノ被害者の会は増えていく一方だ。
……というか、ユエの全力の攻撃を喰らってピンピンしてるとは。ギースの言う通り、ゼノはカリアとは違う凄まじい身体能力の持ち主なのかもしれない。
そうやってお互いの気苦労を労いあっていると、ギースがやけに鋭い眼差しでユエを見据えて、口を開いた。
「そういえば、ユエさんに1つ確認したいことがあったのでした」
「なんだ? 答えられる範囲なら答えてやるぞ」
「では、お言葉に甘えて。——僕がルーナ嬢と闘った時、ユエさんは既にクロウの中にいたのですよね?」
「その通りだ。だがあの頃はリンクを繋いだばかりで不安定でな。お陰でお主やカリアにも遅れをとったわ」
「ほう……ならリンクが安定した今なら勝てると、そうおっしゃるつもりですか?」
「そうだな。だいぶこの体にも慣れてきたし、魔力供給も安定して上級までの技なら問題なく使えるだろう。これなら、お主にも勝てるだろうよ。それに……」
そこまで言うとユエは俺の頭に飛び移り、ギースに向かって上級技『デモンオーラ』で威圧し始めた。
「我はかつて『闇の貴婦人』と恐れられた存在ぞ? 同じ相手に2度も負けるなど、断じてあり得ぬ!」
「……確かに、あの時とは段違いの強さを感じます。これは一筋縄では行かなさそうですね」
デモンオーラを耐えきるギースにユエは目を少し丸くさせるが、すぐに咳払いをして落ち着きを取り戻し、俺の肩に戻るなり自信ありげにギースに宣言する。
「それに、我の愛弟子であるルーナがいるならば勝利は盤石だろうよ。こやつは本当に魔術の天才だからな」
「ユエ……」
「ん、なんだ? 師匠である我をもっと褒め称えてもいいんだぞ?」
「愛弟子っていいますけど……私、貴方に師匠っぽいことをまだ何もしてもらってないですわよ?」
「んなっルーナ貴様! それは夏休み初日からお主がサボっておったのが原因ではないか!」
「だからあの時は疲労が……ってちょっとやめてユエ! つつくのはやめなさい!」
突如として始まった俺とユエのどうでもいい理由の喧嘩を見ていたギースは、高らかに笑い出した。
「はっはっはっ! 本当に君たちは仲がいいんだね!」
「そんなわけない!」
と、2人同時にギースの言葉を否定したところでお互いを見あって軽く笑い合う。口ではああ言ったが、ユエは祖先である前に1人の親友だ。ユエはどう思ってるか分からないが、少なくとも俺はそう思っている。
そして、再び見つめ合ってユエとアイコンタクトを取ると、今度は俺からギースに堂々と宣戦布告した。
「ギース・クロムウェル王子! 貴方に——再戦を申し込みますわ!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は5日投稿予定です。




