第六十一話「ゼノユエが鉢合わせました」
お待たせしました。第六十一話です。
ユエとゼノ…混ぜるな危険です。
最悪な展開が起きてしまった。あろうことか、ゼノとユエが鉢合わせてしまった。トラブルメーカーのゼノに、悪ノリ大好きなユエ。この2人が合わさったら、何が起きるか想像もつかない。俺はこれから起こり得る未来を拒絶するかのように、顔を手で隠してうずくまる。
それをあざとく見つけたゼノが、部屋に入るなり俺に近づいてくる。
「あれあれ、どうしたのルーナちゃん。もしかして、俺の魅力に当てられたとか?」
「そんなわけ、あるはずがありません。今日はもうお引き取りくださいませ」
「ええ〜?せっかくルーナに会いたくて来たのに、それは無いよ〜」
白々しく俺をからかってくるゼノ。あまりのウザさに手が出そうになるが、その寸前でメリアがゼノの注目を引いてくれた。
「あの、ゼノ様。確かゼノ様は、お仕事が大量に立て込んでいるとユウラ様が仰られていましたが、それは大丈夫なのですか?」
「ん?あの程度の量なんて本気を出せばすぐだよ。それにしてもありがと、メリアちゃん。俺のこと心配してくれるてんだね?」
「いや……それは……その……」
「……あれ? もしかして俺、あまり歓迎されてない感じ?」
「見て分からぬか。第一王子ともあろうやつが、馴れ馴れしくおなごの部屋に入ってくるでないわ」
ゼノの発する王子様オーラにすくんでしまったメリアを見かねたユエが、ゼノを挑発してしまう。そしてゼノがユエの姿を捉えたその瞬間、ゼノの瞳がまるでおもちゃを与えられた子供のように輝きを増す。
「あ! もしかして君が噂の喋るカラスかい?いやあ、お目かかれて光栄だよ!」
「……我はカラスなどではない。ユエという立派な名がある」
「そっか! ユエって言うんだね!これからよろしく、ユエ!」
ゼノとやりとりをしていたユエであったが、しばらく言葉を交わしたのち、俺の肩に飛び乗って小声で話しかけてきた。
「なあルーナよ。我、あやつが苦手かもしれん……」
「あれ、ユエにも苦手なことってあったんだ。何か理由でもあるのか?」
「我がまだ人間の姿だった頃、ああいう感じの王子から執拗に結婚を迫られたことがあってな。あの時はあまりのしつこさにそいつを殴り飛ばしてしまった」
「えっ……それ大丈夫なの?」
「大丈夫な訳あるか。しばらく監禁されたのは言うまでもないわ」
「……やめてよ?」
「また我がそうするとでも?我だって成長するのだ。同じ過ちは2度と起こすまいよ。まあ見ておれ、今回は上手くやってみせるわ」
ユエの過去話を聞いてますます不安が募る。ユエは大丈夫だと言ってはいるが、監禁という言葉を聞いてしまったが最後、正直もう気が気ではない。
「なになに? もしかして内緒話? 俺にも聞かせてよ〜」
「阿呆。誰にも聞かれたくないからこその内緒話であろうが」
案の定ユエに興味を持ったゼノが、あれやこれやとユエに絡む。ユエもなんとかいなしているが、次第にユエの眉がピクッと動き始めているのを俺は見逃さなかった。
「ルーナ様、ユエちゃんは大丈夫なんですの? なんだか怒ってるように見えますわ……」
ユエを見かねたマルシアが俺の耳元で囁いてくる。辺りを見回すと、カリアはアワアワと動揺して身動き一つ取れなくなっており、メリアもさっきオーラに当てられた余韻がまだ残っているのか、すっかり動けなくなっている。
「大丈夫ではないでしょうけど……今の私たちにできることはありません。ユエ自身が大丈夫と言っていたし、ここは彼女を信じる他ありませんわね」
「……正直、なんだかイマイチ信用できませんわね。ユエちゃんの自信って」
「マルシアもそう思います?……同感ですわ」
俺とマルシアが小声で話し合う最中にも、ユエはゼノの質問攻めにあっていたようだ。そして心なしか、ユエの姿勢が少しずつ低くなっているような気がした。嫌な予感が的中してしまうかもしれない俺の心臓は、もうすでに破裂しそうなくらいドキドキしていた。
——そして、その嫌な予感は最悪な展開で的中してしまうことになる。
「お主……いい加減にせんかあああ!!」
あまりの質問攻めに耐え切れなくなったユエが、怒号を発しながら風魔術「マッハウインド」でゼノに突進。もちろん避ける余地など無いゼノは、ユエのマッハウインドをモロに溝落ちにくらい、部屋の扉をぶち抜きながら大きく吹っ飛んでしまった。慌ててゼノの様子を確認しに走るが、ゼノは完全に気を失ってしまっていた。
俺は怒りと動揺が入り混じる声でユエを呼び出し、叱りつけた。
「……ユエ? 手は出さないって約束しましたわよね? 何故手を出したのです……?」
「えと……その……すまんルーナ。ついカッとなってしまった」
ユエに反省の色がいまいち見えないが、ここでガミガミ怒鳴るのは時間の無駄だ。せめて傷だけでも、どうにかしなければ。
「メリア、申し訳ないけど回復魔術を——」
「いや、その必要はない。……全く、たまたま近くを通っただけだというのに、こんな現場に出くわすとはね」
必要ないと言うその声に、俺は思わず体が硬直する。恐る恐るその方を見ると、そこにいたのは紛れもなくギースだった。俺は突如現れたギースへの言い訳を必死に探す。
「あ……ギース様? これはその……違うんです!」
「まあ大体事情は分かるけど……申し訳ないが、完全にお咎めなしという訳にはいかないかな」
「……ハイ。モウシワケゴザイマセンデシタ」
こうして、俺とユエは、マルシアらの証言やギースの寛大な措置により、一晩牢屋で過ごすだけの処罰で済んだ。なんで俺までとも思ったが、ユエの監督責任ということらしい。
これ以上ゼノに振り回されるのはごめん被りたいと、俺がそう思い耽けながら牢の隙間から漏れ出る月明かりをぼんやり眺めていると、隣にうずくまっているユエがボソッと呟いた。
「……だから王族は苦手なのだ」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回は8月2日投稿予定です。




